マイボス・マイヒーロー第八話

日本テレビ系。土曜ドラママイ★ボス マイ★ヒーロー」。
脚本:大森美香。原案:「頭師父一體」。音楽:高見優。主題歌:TOKIO「宙船(そらふね)」(ユニバーサル・ミュージック)[作詞&作曲:中島みゆき]。企画協力:明石竜二(ミレニアム・ピクチャーズ)。制作協力:トータルメディアコミュニケーション[TMC]。協力プロデューサー:小泉守&下山潤(TMC)。プロデューサー:河野英裕山本由緒日本テレビ)&山内章弘&佐藤毅(東宝)。企画:東宝。演出:佐藤東弥。第八話。
一人の身体は何万、何十万もの部分の集積であり、それら全てが一つにならなければ体調不良や不健康に陥るのであるという「賢者」水島椿先生(もたいまさこ)の教えが榊真喜男(長瀬智也)に対し、「組」の指導者であるための指針を与えた。彼は今回一点の曇りもなく一直線に疾走するかのように行動した。そして3年A組の皆がそれに従った。組の皆が抵抗を直ぐ止めたのは決して不可解ではない。第二話における球技大会の成功のとき以来、組の空気の変化は確かに進行していたからだ。
ただし一つだけ疑問点があるとすれば、何時もあんなに冷ややかだった反真喜男派の三人組の二人、美形の平塚隆介(武田航平)と体のデカい瀬川保(田中泰宏)が今回あんなにも直ぐに素直に榊真喜男に与したのは何故か?という点だ。何時も通り行動したのは長髪(「キモロンゲ」!)の諏訪部祐樹(広田雅裕)一人だけだった。何故だろうか。
疑問を解く鍵は、平塚隆介がベース演奏を得意とすることにある。練習でも本番でも演奏中の彼が嬉しそうで陽気な笑顔だったのを見れば、彼が音楽好きな男子であるのは明白だ。だから文化祭の出し物として組の全員で音楽をやりたい!と榊真喜男が宣言したとき、平塚隆介は本当は直ぐにでも賛同したかったに相違ない。でも、これまで反真喜男派として冷ややかに行動してきた手前、今回もまた冷ややかな態度を取らざるを得なかったのだろう。態度を一変させるためには、それを包み込んでくれる空気が必要だった。音楽好きな女子たちがバンドへの参加を決め、楽器の苦手な「星野くん」こと星野陸生(若葉竜也)と子分の伊吹和馬(佐藤貴広)&宝田輝久(伊藤公俊)の三人組も合流し、組の空気が一変した中で漸く平塚隆介も己の本心に誠実になることができたのだ。とはいえ彼も一人では行動しない。瀬川保を道連れにした。瀬川保が当初は乗り気ではなかったのは、練習の初めの頃の彼の悪フザケの程が物語るところ。しかるにそんな彼を叱咤激励していたのは意外にも平塚隆介だったのだ。
他方、何時も榊真喜男に好意的な「星野くん」こと星野陸生が今回は直ぐには好意的にならなかったのは何故だろうか。案外、文化祭の出し物になり得るようなこと一切を苦手にしているとか何か、とても単純な理由ではなかったろうか。実際、彼はギターを弾くのは苦手だった。音楽であれ演劇であれ文化祭に関係するようなこと一切を嫌っていて、それで賛成したくとも賛成するのを躊躇せざるを得なかったのではないかと想像しておきたい。やはり彼にも、本心に誠実になるための契機が必要だった。ここでは伊吹和馬の忠告と真鍋和弥(田中聖)の脅迫がその役割を果たした。
ところで、榊真喜男が「賢者」水島椿先生の教えを瞬時に理解できたのは、先生の説明が鮮やかだったことに加えて、彼自身がもう一つの「組」=任侠「関東鋭牙会」において思い当たる経験をしていたからだったようだ。彼は組の内部の不穏な動きを、誰に教えられなくとも組織の一員として感じ取っていた。一は多から成るとしても、多は多であることを超えてこそ一をなすのである以上、一が動揺し分裂して一であることを失えば、多の中の一にも甚大な影響をもたらさざるを得ないのだ。
水島椿先生と榊喜一(市村正親)との間に深い関係があったのは間違いない。南百合子(香椎由宇)は学園の職員室のアイドルで、そして南百合子は妄想の中で高校時代の自身を榊真喜男と交際させていた。安原正(森廉)がピアノ演奏の名手だったのは必ずしも意外ではなかったが、意外だったのは早坂雅人(西野成人)が音痴だったこと。でも合唱隊の一員として彼なりに真面目に取り組み、練習でも大声で歌っていた。また榊真喜男がリズムを外しがちなのはどうやら父親の榊喜一から受け継いだもののようだ。