新番組-土曜ドラマたったひとつの恋

新番組。
日本テレビ系。土曜ドラマたったひとつの恋」。
脚本:北川悦吏子。音楽:池頼広。主題歌:KAT-TUN[作詞&作曲:小田和正]。制作協力:三城。プロデューサー:西憲彦&渡邉浩仁。演出:岩本仁志。第一話。初回二十分延長。
海辺にある船の修理工場で、薄汚れた作業着姿で働いていたヒロト亀梨和也)。亡くなった父が残してくれた工場だが、その経営は苦しく、かなり借金があるようで、返済を求める銀行員には彼が頭を下げなければならない。まだ二十歳の修理工だが、工場の主でもあるのだ。若い工場主が経営の全責任を担い、苦しんでいる様子を、辛そうに見守るしかなかった二人の従業員(田口浩正&浜田晃)。これら一連の描写だけで既に充分ドラマティクだ。しかもなお彼には、車椅子に乗り養護学校に通う病弱な弟、レン(斎藤隆成)がいるのだ。かつて工場を守っていた母(余貴美子)は、長男のヒロトがそこを継いだのを機に、自らは家計を支えるため水商売で働き始め、昼と夜の逆転した生活をしていた。だから弟の食生活の面倒を見るのも事実上ヒロトの仕事だ。世に「格差社会」と云うが、実に、困窮はさらなる困窮を招いて、しかも脱出への道を与えはしない。ヒロトは苦難の螺旋階段上にある。
ヒロトの大親友、コウ(田中聖)とアユタ(平岡祐太)。同じく貧乏な青年たち。彼等三人が、夕方から夜にかけて、神崎造船鉄工所の脇の海辺に停めてある修理中の船の上に集い、缶ビールと肴を持ち寄っての貧乏な酒宴を楽しみながら、横濱女学院の富豪の御嬢様たちと自分たちとの間の決して狭められることのない隔たり、身分の違いについて語り合う場の情趣には心に沁みるものがあった。普段は現実の生活の忙しさに追われているから、そんな境遇の違いがこの世に確かに存在することなんか忘れていたのだろうし、高嶺の花の別世界がどれだけ華やかであるかなんて考えたこともなかったのだろう。格差が出会いを遮ることの切なさを感じつつあるのだ。
彼等三人の地味な気配を敏感に嗅ぎ取り、そこに親しみを感じたらしい横濱女学院のユウコ(戸田恵梨香)。普通にアルバイトにも励んでいる点から想像するなら、貧乏な家の娘ではないにせよ必ずしも大富豪の令嬢であるわけでもなさそうだ。二つの世界を知り得る立場にあるだろう。
ナオ(綾瀬はるか)は働いたことがない。街で屈指の大富豪、大きな宝飾店の社長の令娘であるからだが、どうやら健康上の何らかの問題を抱えているからでもあるようだ。父(財津和夫)は愛娘のナオに少しだけ働いてみるよう勧めたが、それも自社の本店内でのことに過ぎない。他所で働かせることには不安があるようだ。
ナオの前でヒロトは何時も苛立っている。優しいのか意地悪なのか分からない程、態度が常に揺れ動いている。何故か。密かな恋心のゆえ。しかし恋心の芽生えを決して認めたくはないという彼自身の頑なな決意のゆえ。相手との間の圧倒的な身分の違いに、彼は既に傷付いている。己の恋心は決して許されないと思っている。内面の分裂に苛立っているのだ。
今宵のこの第一話では物語の舞台、登場人物の性格が設定され、ドラマの発端が物語られたが、全ては明暗に富んだ色とりどりの映像によって鮮やかに描き出された。その美しさがこの作品を生動させている。
設定や物語のこと以上に第一話で印象深かったことが二つある。亀梨和也には薄汚れた作業着と、工場の労働が素晴らしく似合っていたこと。そして綾瀬はるかにはハロウィンの夜の魔女の扮装が素晴らしく似合っていたこと。貧乏な青年の役がよく似合う亀梨と、富裕な令嬢の役がよく似合う綾瀬。思えば両名とも、この上なく的確な人選だったのだ。
なお、ナオの通う茶道教室の教授は松島トモ子[友情出演]。イヴェント司会者は「ズームイン!!サタデー」の望月理恵だったろうか。
[登場人物&出演者]ヒロト=神崎弘人20歳(亀梨和也KAT-TUN])/ナオ=月丘菜緒20歳(綾瀬はるか)/コウ=草野甲20歳(田中聖KAT-TUN])/アユタ=大沢亜裕太20歳(平岡祐太)/ユウコ=本宮裕子20歳(戸田恵梨香)//神崎造船鉄工所修理工(田口浩正)神崎造船鉄工所修理工(浜田晃)レン=神崎廉10歳(斎藤隆成)//月丘達也25歳(要潤)//月丘みつこ48歳(田中好子[特別出演])/月丘雅彦55歳(財津和夫)/神崎亜紀子48歳(余貴美子)。