渡る世間は鬼ばかり第三十二話

TBS系。「橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。作:橋田寿賀子。音楽:羽田健太郎。ナレーション:石坂浩二。プロデューサー:石井ふく子。演出:荒井光明。第八部第三十二回。
神林常子(京唄子)は人里離れた「北丹波町診療所」が助産婦としての己の安住の地ではないことを自ら悟り、解雇される前に自ら職を辞して、別居中の最愛の夫、神林清明愛川欽也)の病院に漸く戻った。そこには常子の帰りを待っていた神林先生のほか、「女先生」との会話を楽しみたい老人たち大勢が待っていたのだ。こうして常子の流浪の物語は終結したが、次には実の娘、本間由紀(小林綾子)との戦いを再開しなければならないようだ。
常子の自己紹介は「常子ダス」だった。
他方、野々下加津(宇野なおみ)の迷走は螺旋階段のように深化しつつある。先ずは小島眞(えなりかずき)へ愛の告白をした。眞は加津を妹のように大切に思っていると語り、しかも妹が女友達よりも大切であると語った。これは事実上、両思いであることを確かめ合ったに等しい。次いで菊村康史(錦織一清[少年隊])からは老舗の高級和菓子店「菊屋」菊村家に来て欲しいとの申し出があり、彼や菊村サワ(渡辺美佐子)の加津への愛が今なお変わらないことが明かされたが、この厚意に加津が誠実に応じようとしないのも今までと何ら変わらない。もし加津が眞の忠告に従い小島家に直ぐ戻るか、或いは菊村康史の厚意に甘えて菊村家に入るか何れにせよ何れかを選択していたなら、野々下長太(大和田獏)の暴走を未然に防止できたに相違ない。彼の暴走は野々下邦子(東てる美)を発狂させることにおいて最も罪深いが、そもそも彼自身の行為それ自体にも少なからず問題があることを見落としてはならないだろう。彼は現実に何が起こっているのかを正確に把握しようともしないで、己の勝手に信じ込んだ方向に猪突猛進しようとしがちだ。そのことがどれだけ事態を混乱させてきたことだろうか。