バンビーノ第九話

日本テレビ系。水曜ドラマ「バンビ〜ノ!」。第九話。
原作:せきやてつじ小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」)。脚本:岡田惠和。音楽:菅野祐悟。主題歌:嵐「We can make it!」。プロデューサー:加藤正俊&村瀬健&浅井千端(MMJ)。制作協力:MMJ。演出:大谷太郎
伴省吾(松本潤)と皆川こずえ(小松彩夏)の「二足のワラジ」のような状態についてカーポ・カメリエーレの与那嶺司(北村一輝)が、両名の野心や闘志には感心しつつも同時に、寂しさをも抱かざるを得ないようだ。そのことは以前にも一度は描かれたが、やはり見落とせない重要な視点だ。カメリエーレの仕事は両名にとっては、あくまでも一時的な、しかも内心は不本意な、単なる修業でしかないだろう。真の仕事は、勤務時間外の、夜中の自宅での私的な料理研究の中にしかないとさえ感じていたろうか。だが、与那嶺司や柴田謙一郎(麻生幸佑)や高梨宏太(佐藤佑介)や永井寛和(佐々木崇雄)にとってはそれは本職であり、生涯の仕事でさえある。柴田謙一郎は、伴省吾の大失敗を辛うじて未然に防ぎ、しかも責めるどころか、ますます料理の研究開発に精出すよう激励までもしてくれた。全てはカメリエーレという仕事への責任感と、六本木トラットリア・バッカナーレという店への愛と誇りと、バンビーノという仕事仲間への友情から出た行動だろう。彼はもちろん伴省吾がそれに甘えてくれることを当然のように予想し、望んでもいただろうが、ここで甘えるようでは伴省吾は大人としては失格だったろうし、確かにそれはできる相談でもなかった。皆川こずえは、料理の研究には永い歳月をかけ、短期間で無理をしないよう充分に準備期間を取ることで、カメリエーレの仕事を決して疎かにすることのないよう気をつけていた。そうした時間を持たなかった新人の伴省吾には、泣く泣く今回は諦める以外に道はなかったろう。このことを彼は自力で悟り得たのだ。大人の職業人としての適切な判断だ。不図思うに、妹尾雅司(向井理)は、見習いとはいえ名誉あるバッカナーレの料理人の職にありながら「目の前にあることをやるだけ」と云って、新メニュー開発の競争にはそもそも参戦しようともしなかったが、それもまた己の分を弁えた大人の判断であるのかもしれないのだ。それにしても今宵の妹尾雅司は大好きな伴省吾に漸く少しは頼りにしてもらえて嬉しそうだったが、反面、料理人としての伴省吾の闘志や向上には流石に微かな嫉妬心や敵対心も隠せないところも愛らしかった。
分野は違っても「二足のワラジ」の状態に現実に見舞われている者にとって、今宵のドラマには色々思い当たることも考えさせるところもあって、その意味からも面白かった。