引越の中止

昨日の夜までの幸福な気分は、今宵、完全に失われた。快調に進んできた引越の計画を、ここで中断しようかと考えるに至ったのだ。その発端は昨日の夜のこと。移転先の玄関から職場の門まで徒歩どれ位かかるかを確かめるため実際に歩いてみたのだが、その途中の、街の真中とは思えぬ程に寂しく寒々しい道を通ったとき不図、かつて誰かに聞かされた噂話を想起して、深夜、そのことについてインターネット上で検索してみたところ、なるほど不吉な噂話を記した掲示板が二件ばかり出てきた。所謂霊感の類を持ち合わせてはいないが、流石に気になった。それで今朝、親しい歴史学者衆に問い合わせをしてみたところ、色々伝承のある土地のようだが、江戸時代から普通の住宅街だったそうで、歴史的には問題ないのではないかとの助言を得た。しかし気になり、親しい大手輸送会社引越等専門の社員氏に電話をかけ、引越の専門家として何か知らないかを尋ねたところ、同社内ではそんな噂は聴いたことがないとのこと。それで少しは安堵できたものの、さらに行き付けS店で地元住民の方々に意見を求めた結果、想像を絶するような恐ろしい話を次々に聴かされ、大いに震え上がった。同じ町にある別の或るマンションでは、室内に鏡を置くことを大家が禁じているのだとか。底抜けに怖い。しかし加えて何よりも、当該地域は日当たりの面で最悪の条件下にあり、その点だけ考えても長期的な居住には全く適していないとの合理的な意見も得られた。なるほど、顧みるに、今までの吾が人生の中で日当たりの悪い部屋に住んだことがなかった所為で、日当たりという条件の重要性を充分認識し切れていなかったのは確かだ。本気で反省した。