大河ドラマ風林火山第四十三話

NHK大河ドラマ風林火山」。演出:田中健二。第四十三回「信玄誕生」。
山本勘助内野聖陽)が、養女に迎えた原虎胤(宍戸開)の娘リツ(前田亜季)の婿殿として想定していたのは、家臣の葛笠茂吉(内野謙太)や河原村伝兵衛(有薗芳記)だったのか。何と云うか、非道い。茂吉が謹んで山本家の婿になろうとしていたのも、父の太吉(有馬自由)が喜んだのも当然だろうが、太吉の妻おくま(麻田あおい)が反対したのには驚いた。とはいえ、なるほど葛笠家も今や甲斐の軍師の家臣として武家と化したわけなので、茂吉は大切な跡取なのか。リツ姫を葛笠家の嫁に迎えるなら兎も角、その逆に長男を山本家の婿に差し出すことなど考えられないことだったのだ。こうして貴族的な「家」の論理が下々にまで普及してゆくものなのか?と考えると一寸面白い。
武田晴信市川亀治郎)は、日本国王=将軍足利義輝の命により、越後の長尾景虎Gacktガクト)と和睦せざるを得なくなったが、その際、条件として信濃国の守護の地位を獲得した。景虎の御得意の「義」を地位として先取した格好だが、これに対抗すべく上杉憲政市川左團次)は景虎を上杉家の養子として迎えた上、関東管領の職を譲った。これには打算もあった。宿敵の北条氏康(松井誠)を打倒すべく長尾家の力を利用したかった上杉憲政は、景虎が武田家との軍にばかり夢中になっている現状に焦り、何とかして一刻も早く北条討伐に向かわせるため、関東管領にすることによって関東の平定を義務付けたかったのだ。馬鹿殿にしては実に深い考え。しかし景虎は一枚上手だった。彼は既に京の将軍家から絶大な信頼を得ていて、関東管領の地位のみを得ることよりも、むしろ関東管領の権威の源泉としての足利将軍家から直々に権威を付与されること、延いては将軍の権威の源泉としての京の禁裏の天子から権威を付与されることを望んだのだ。のちの織豊時代には天子の権威が強大化し、徳川家康と秀忠の父子はそれを抑制するのに苦労させられるわけだが、戦国の乱世におけるそうした朝廷の力の回復がどのようにして生じたかを表現するかのようで実に面白い場面だった。