歌姫第八話

TBS系。金曜ドラマ「歌姫」
脚本:サタケミキオ。主題歌:TOKIO青春(SEISYuN)」。制作:TBSテレビ。演出:坪井敏雄。第八話。
四万十太郎(長瀬智也)の失われた過去「ゆうさん」こと及川勇一について及川美和子(小池栄子)の語ったことは、現在の四万十太郎とは殆ど正反対のような、殆ど別人のような話ばかりだった。過去の記憶を全て喪失してしまい、現在は全く別の人生を、しかも十年間も営んできた太郎にとっては、それは到底受け容れようもない話だったかもしれない。だが、土佐清水の男としての「四万十太郎」を失いたくはない岸田鈴(相武紗季)には逆に、美和子の語る「ゆうさん」の話には一々思い当たる節があった。美和子の側には「ゆうさん」を取り返せる希望が一向に見えてはこないが、鈴の側には太郎を失う恐れが大きくなってきている。ここにあるのは明暗の対比ではなく、二つの暗の対比だ。
美和子を泊める土佐清水の民宿「さば塩」の女将、鯖子(斉藤由貴)の、余計なことは何も知らない!何も云わない!ただ周囲がどう云おうと自分一人は美和子を応援してやる!という姿勢は、悲しみと労苦を背負って何の解決をも得られないまま老いてしまった者ならではの知恵とも云うべきだろう。
これに対してジェームス(大倉忠義)が鈴の太郎への恋を応援したくて美和子に冷たく接するのは、彼が若くて真直ぐであることをよく物語っている。若くて真直ぐであるのは好ましいが、知恵が足りていない。美和子の側の悲しみを少しでも解するだけの想像力を欠いているのだ。もちろん希望を見出せないでいる美和子には鯖子が必要であるように、恐れを抱く鈴にはジェームスのような味方も必要なのかもしれないと考えることはできるが、鯖子が鈴を悲しませないのは対照的に、ジェームスは美和子に不安を与え、悲しませた。ここに鯖子とジェームスとの経験の差が表れている。
出産を控えた小日向泉大河内奈々子)の騒動で美和子の見せた的確で冷静な対処に、岸田浜子(風吹ジュン)は「妊婦の扱いに慣れている」と感心していた。このことは何を物語るだろうか。
土佐中村では、侠客を廃業した山之内の親分(古谷一行)の許へ刑務所から出てきた久松(松村雄基)が戻って来た。堅気になって政界を目指したいと云う親分に代わり一家を継承すると宣言したが、果たしてどのようにドラマを動かしてゆくのだろうか。