仮面ライダー電王最終回

テレビ朝日系。「仮面ライダー電王」。長石多可男演出。第四十九回「クライマックスは続くよどこまでも」=最終話。
実に最終回らしい最終回だった。オールスターキャストで賑やかで華々しく見所も多く、泣ける場面の連続でありながらあくまでも幸福に終結した。
例えば少年=桜井侑斗(中村優一)に限って見ても、全ての出番が見所だったと云うも過言ではない。大勢の敵イマジン相手に生身のまま闘ったり。青年=桜井侑斗(所謂「桜井さん」)からデネブ(声:大塚芳忠)の預っていた変身用カード最後の一枚を用いて変身し、デネブとともに、そして野上良太郎佐藤健)一行とともに闘ったり。デネブの消えたあとのゼロライナー内、デネブの作っておいた大嫌いな椎茸御飯を泣きながら頬張ったり。やがて涙の再会。最後にはゼロライナーで旅立ち、二〇〇八年の良太郎に一先ずの別れを告げたり。
だが、侑斗はどこへ旅立ったのか。もちろん彼の本来あるべき時間、空間へ。二十年ばかり昔だろうか。そこにおいて彼は再びデネブに別れを告げなければならないはずだ。彼が再びデネブとともにゼロライナーに乗車し、仮面ライダーゼロノスに変身してイマジン相手に闘うということはないだろう。なぜなら、それは終わったのだからだ。そして彼が約二十年後、イマジンと闘うためにゼロライナーに乗車し、カイ(石黒英雄)との戦いの只中、デネブと契約を締結し、二十年前の己自身に戦いの役を託すということもないだろう。なぜなら、そのように行動しなければならなかった青年=桜井(所謂「桜井さん」)は消滅したのだからだ。そのような桜井侑斗は元より存在したことがないことになったのだ。
だから二〇〇八年一月の時点で良太郎の姉、愛理(松本若菜)には恋人がいない。いたこともないだろう。愛する人の記憶なんかない。しかし「想い」だけがある。不思議なことだ。愛理の喫茶店ミルクディッパーには何時ものように尾崎正義(永田彬[RUN&GUN])&三浦イッセー(上野亮)コンビが来て求愛を続けるが、実ることはあり得ない。だが、やがてそこに来るだろう。愛理が何時か必ずや会えるに違いないと信じ、「想い」を抱き続けてきた運命の人、苦い珈琲の苦手な甘党の「桜井侑斗君」、少年から青年へ成長した桜井侑斗(中村優一)が。
数年後、二人の間に生まれるのがハナだ。やがてコハナ(松元環季)のように成長するはずの娘だ。ハナ(白鳥百合子)からコハナへの変化の原因がこの時間差の発生にあるのは明白だ。イマジン戦争の期間中に存在したハナとコハナは「特異点」であることによって辛うじて存在し得ていたに過ぎない。今日のこの戦いの完全な終結の結果、コハナ=ハナは正しく侑斗と愛理の子として存在することを得たのだ。