新番組=橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり第一話

今宵からの新番組。
TBS系。橋田寿賀子作「橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
脚本:橋田寿賀子。音楽:羽田健太郎。ナレーション:石坂浩二。プロデューサー:石井ふく子。演出:清弘誠。第九部第一回。二時間スペシャル。
一年前に終了した第八話において印象深かった話が幾つかあった。未曾有の危機を経験した神林常子(京唄子)を事実上の主人公とする橋田寿賀子版「世界の中心で、愛をさけぶ」。小島久子(沢田雅美)の恐るべき陰謀の副産物としての小島家ラーメン店「幸楽」倒産の危機。野田弥生(長山藍子)と家族との間の抗争。小島眞(えなりかずき)屈辱の失恋…。
だが、全ては過去の話だ。
あれから一年を経て、かなり昔に解決したはずの問題は何時の間にか再燃し、或いは生じる道理もなかった問題が新たに、しかも唐突に発生した。一体、この一年間に何があったのか。老若男女を問わず(たとえ幼児であろうとも!)登場人物の皆が、これまでの経緯や現在の状況、今後の予測、それに対する関係者の心境や自身の私見等について極めて詳細に、説明過剰なまでに、台詞において語り尽くしてくれるこのドラマにあって、ドラマ化されることのなかった空白の歳月に生じていたに相違ない事柄が、意外にも殆ど説明されない。
奇妙だろうか?バランスが悪いだろうか?説明しなくとも概ね想像できるようなことまでも散々詳しく語っておきながら、肝心なことを今一つ語ってはくれないなんて、そんな道理はないだろう!と思う者もいるかもしれない。だが、ここにこそ「橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」の妙味がある。分析甲斐のある闇を至る所に数多く拵えてくれている。
少し具体的に云えば、例えば、神林常子は何時の間にか昔の騒々しく鬱陶しい人に戻っていた。没落の果てに人生の儚さを悟り、虚飾を捨て、人格者になったのではなかったのか。でも、何時の間にか全て「リセット」。
また、小島久子は米国から戻って来た。何時の間に渡米していたのか。確かに一年前、娘の小島加奈(上戸彩)や母の小島キミ(赤木春恵)からは米国で一緒に暮らそうと誘われていたが、米国なんかで暮らしたくはない!と却下したのではなかったか。小島五月(泉ピン子)や小島勇(角野卓造)は、米国から久子が帰国したという突然の事態に驚いていたが、一年前から今日までの経緯を全く知らない者にとってはむしろ逆で、久子が渡米していたことの方が驚くに値する展開なのだ。
ともあれ、今宵のこの一年振りに再開されたドラマの第一話において最も驚かされた唐突の展開が、野田弥生の娘、野田あかり(山辺有紀)の突然の家出という事件にあるのは云うまでもない。誰が予想し得たろうか。結婚生活とか専業主婦業、さらにはそもそも家庭生活それ自体にも向いていないと見るほかなかった野田あかりが、まさか、あんなにも必死に育てていた吾が子を何の迷いもなく捨てて、愛する男と一緒に海外へ去ってしまうなんて。浅田和久(深江卓次[石原軍団])との一年前の騒動は一体何だったのか。しかも野田弥生と野田良(前田吟)の夫婦の動揺、不安にさらに追い討ちをかけるかのような、長男=野田武志(岩渕健)の突然の帰宅。工場を引き払い、家族で実家へ戻りたいと云うのだ。尋常ではない。工場の社長が事業を放棄してまで実家へ戻る道理はないだろう。何かあったのは明白だ。野田家は一体どうなるのか。
高橋文子(中田喜子)の経営する小さな旅行代理店に多大の関心を寄せて熱心に協力をしてくれている金田典介(佐藤B作)にも、どことなく危険な気配を感じないではいない。妻の金田利子(山下容莉枝)がどう考えているか知らないが、夫の金田典介にはとんでもない野心がないとも限らない。