橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり第四話

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
作(脚本):橋田寿賀子。音楽:羽田健太郎。ナレーション:石坂浩二。演出:竹之下寛次。プロデューサー:石井ふく子。第九部第四回。
人間嫌い症状を来たし始めていた本間日向子(大谷玲凪)。教育熱心の祖母、神林常子(京唄子)の指摘は、流石、的確だったと云うべきだろう。日向子が時々垣間見せるそうした不吉な徴候に気付いて、母の本間長子(藤田朋子)も漸く、躾けをし直すべき必要性を認識するに至った。
そこで、その件について夫の本間英作(植草克秀[少年隊])に相談し、協力を求めたところ、翌朝、英作は期待をはるか上回る協力をした。長子の厳しい態度について父に泣きついてきた日向子に対し、彼はその全てが己の指示によるものであると(実際には全然そうではなかったにもかかわらず)述べることで全責任を自ら負うことを宣言したのみか、その厳しい態度の意図するところについて優しく説いて諭し、ついには納得させることを得たのだ。見事だった。何時も陽気に酔っている姿ばかり見せ付けられてはいたが、ああ見えてなかなか頼りになる家長でもあったのか。
これに比すると長子の何と頼りにならないことか。云うことこそ偉そうではあるが、実現する力を欠いていると云われても仕方なかろう。そもそも日向子をあそこまで追い詰めた責任の大部分は、誠に遺憾なことに長子にあると考えざるを得ない。長子が自称「翻訳家」としての仕事に夢中になる余り、まだ幼かった日向子に年齢不相応の多大の忍耐を強いていたことを、吾等視聴者は記憶している。幼少期のあの苦痛と鬱屈の蓄積が、今日の日向子の捻くれた性格を拵えたと考えるのは、自然な発想ではないだろうか。
日本国の「最高学府」と称される旧東京帝国大学こと国立大学法人東京大学に通う小島眞(えなりかずき)は、大井輝(大川慶吾)という少年の家庭教師として働く傍ら、その少年の姉にあたる大井貴子(清水由紀)と深い仲になり、挙句、彼等の両親とも親しくなって婿入りをも勧められる始末。しかし今回、あろうことか、その件について吉野杏子(渋谷飛鳥)に相談をしていた。どういうことだろうか。何のつもりか。
吉野杏子は既に東京大学を辞めて家業である浅草の手拭屋を継ぎ、また、その店で働く幼馴染みの職人「へいちゃん」(石坂浩二か?)と結婚して婿に迎えている。かつて小島眞は吉野杏子と親密に交際していたつもりだったが、対する吉野杏子の側にそんなつもりは寸毫もなく、それどころか幼馴染みの「へいちゃん」との念願の婚約の成るや、何の未練もなく東京大学を辞めてしまい、こうして、哀れ、「男」としてさえ見られてもいなかった小島眞は、そもそも失恋でさえない惨めな失恋に泣きに泣いたのではなかったか。それなのに、日々忙しく働いている吉野杏子をわざわざ呼び出して、恐らく吉野杏子にとってはどうでもよいような類の恋愛相談の相手をさせるなんて、そんな道理はないだろう。意図が解らない。