渡る世間は鬼ばかり第十四話における橋田寿賀子流BL要素

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
作(脚本):橋田寿賀子。音楽:羽田健太郎。ナレーション:石坂浩二。演出:荒井光明。プロデューサー:石井ふく子。第九部第十四話。
野田弥生(長山藍子)と野田良(前田吟)の一家における騒動の、一応の完結編だったろうか。この老夫婦の長男、野田武志(岩渕健)は借金を抱えて困窮していた中、姉の野田あかり(山辺有紀)が野田勇気(渡邉奏人)を残して失踪するという誰も予想できなかった唐突の異変が生じたのを受けて、妻の野田佐枝(馬渕英俚可)と妻の連れ子の野田良武(吉田理恩)との一家を連れて殆ど夜逃げ同然で老いた両親の家に転がり込んできたのだったが、そうして始まった祖父母と父母と兄弟の六人家族の生活は当初こそ文句なく上手く行っていたものの、良武は、かつて三人家族で生活し、両親を己一人で独占できていた時代を懐かしみ、不意に家出をしてしまった。そこまでが先週の話。
さて、今週の話。この事件に衝撃を受けた武志は大いに取り乱し、弥生と良に対し八つ当たりをした挙句、やはり三人だけの家族水入らずで生活した方がよいのだ!こんな同居を始めたのは間違いだったのだ!と云い出した。姉あかりが唐突に失踪してしまい、老いた弥生と良が大変だろうと思ったから心配して同居を始めてやったのに!とでも云わんばかりの口調だったが、そもそも、この同居を強く申し出たのが武志だったのは云うまでもない。弥生は大反対だった。借金を抱えて身動きも取れず行き場もない武志一家のために弥生と良は同居を許してやったのだ。それなのに、たとえ取り乱したとはいえ、こんな無茶な云い方をしてよい道理がない。
ともかくも、怒りの武志は三人で独立することを決意。そのための生活費は何とか自ら稼げるものの、新たな居所を構えるのに必要な敷金礼金の類や引越し費用を出す余裕がないので、そこは良に出してもらうことに。どこまで都合のよい話だろうか。でも、こうして同居の解消、別居の開始を宣言するや、勇気は真の兄のように慕っている良武との別れを悲しみ、良武もまた勇気との別れを悲しんで別居それ自体に反対した。結果、この同居を継続することに決し、騒動は解決した。
注目すべきことは、勇気が、良をあたかも真の兄のように、佐枝をあたかも真の母のように慕っていることを表明する中で、もはや自身には父も母もいなくなったものと覚悟していると語ったこと。なるほど母あかりには居場所はなくなったのだ。もし戻ってきたとき、また一騒動あるだろうことが容易に予想されよう。なお、勇気と良武との関係は、当世のBL流行を受けての橋田寿賀子なりのBL要素ではないかと解釈できるかもしれない。流行を取り込まずにはいない貪欲の姿勢は相変わらずだが、この、何とも微妙な外し加減も流石と云うほかない。