学校じゃ教えられない!最終話

日本テレビ系。火曜ドラマ「学校じゃ教えられない!」。
脚本:遊川和彦。音楽:福島祐子&高見優。プロデューサー:大平太&桑原丈弥&井上竜太(ホリプロ)&太田雅晴(5年D組)。制作協力:ホリプロ5年D組。演出:猪股隆一。十限目。
充実した最終回だった。先週までの九話にわたった物語の締め括りとして申し分ない内容があった。灯愛学園の社交ダンス部の十人の生徒たちは、それぞれの抱える秘密、悩み事を互いに打ち明けあい、語り合うことで一緒に乗り越えてきたが、前回の最後、水木一樹(中村蒼)が「退学」の決意を宣言したのを機に、今回、もう一度それぞれの抱える問題を改めて考え直し、もう一段と深い真の解決を図ったのだ。
この過程で興味深かったことの一つは、一樹と西川叶夢(森崎ウィン)との間の関係が改めて捉え直されたところだ。叶夢は幼馴染みの大親友「カズ」こと一樹を心から信頼し、現実の行動においても何時も頼りにしていた。叶夢の恋人である横山永璃(仲里依紗)に云わせれば、叶夢は何時も、何時でもカズに「甘えてきた」。そして一樹もまた叶夢のそうした「甘え」には常に完璧に応えてきた。両名のそうした関係は一限目から七限目までの七話にわたり描かれてきた。だが、叶夢の「甘え」に対して一樹が何時でも甘かったのは、一樹が、誰にでも「優しい」男子だからである以上に、叶夢に対して密かな恋心を抱いていたからでもあった。叶夢の恋人になることこそ無理でも、叶夢にとって最高に頼りになる無二の友であり続けることによって、愛する叶夢を独占し続けることができるのではないかという期待もあったに違いない。要するに一樹も、叶夢に「甘えてきた」。一樹が灯愛学園の退学を決意したのは、本来の自身にとって最善の進路であると自ら信じる進路へ戻るためである以上に、むしろ叶夢に対する「甘え」を自ら断つために他ならなかった。
彼のこの決意の宣言を機に、他の皆がそれぞれの抱える問題を改めて見詰め直してゆく流れは鮮やかだった。しかもその波は、相田舞(深田恭子)を通して、氷室賢作(谷原章介)や影山盟子(伊藤蘭)までも及んだのだ。
氷室校長の退任を受けて理事会より新たな校長に指名されていた影山がそれを辞退し、あくまでも現場の教員として生徒たちと接し続けることを決意したとき、その決意に感動した相田舞に対して影山は、その決意を促したのが実は相田舞の「気持ち」のこもった言葉に他ならなかったことを告白し、かつての教え子が今や立派な教師に育ったことを喜びながら、何時もの厳しい口調で「その気持ち、お忘れにならないように」と云った。これまで厳しい説教や命令に伴われる語だった「お忘れにならないように」がこのように逆の意味で用いられたところに、今宵の最終回における人々の変化のドラマティクな深さが存分に表現されていると云えるだろう。
なお、ドラマの公式サイトにはドラマ中に描き切れなかった後日談が「スピンオフ動画」として公開されている。三年後、一樹は叶夢と同じ大学に合格することになるらしい。そのとき見城瞳(朝倉あき)は既に大学の医学部へ進学して一年。一樹は高校受験をやり直した所為で一年遅れての進学。叶夢は高校卒業のあと一年だけ浪人生活をして、一年遅れの進学。一樹によれば叶夢は高校受験のときに続いて一樹の答案用紙を覗く「カンニング」をしたらしい。とはいえ一樹が都内でも一流の進学校に通っていた優等生だったことを考えるなら、叶夢が猛勉強に励んだろうことは想像できよう。二人の関係は三年間を経てもなお殆ど変わっていないと思しい。変わったのはむしろ一樹と瞳の関係だろうか。高校受験をやり直した一樹が一流の進学校へ入り直した二〇〇九年の四月、駅で偶然にも一樹と再会した瞳は、一樹が電車に乗った別れ際、不意を突くようにしてキスをして、それを真の初めての、初恋の人へのキスとしたいとの思いを告げて、一樹はそれを受け容れた。以来三年間、二人はメイルの遣り取りのほかは接することもなかったらしいが、あれから三年後の三月、一樹は三年振りに再会した瞳の手を握り締めた。二人の関係がどのように進展し深まり行くのか、無二の「相棒」としてか、それとも意外にも恋人としてなのかは定かではないが、灯愛学園で何時も一緒に過ごしていたときの二人の関係よりも一段と、着実に深みを増してゆくだろうことは間違いなさそうだ。