赤鼻のセンセイ第八話

日本テレビ系、ドラマ「赤鼻のセンセイ」。第八話。
脚本:根本ノンジ。主題歌:原由子夢をアリガトウ」。音楽:中塚武。チーフプロデューサー:櫨山裕子。プロデューサー:大倉寛子&秋元孝之。制作協力:オフィスクレッシェンド。演出:吉野洋
病院の経営者の判断は、院内の各部門の担当者の判断とは同じではないだろう。院内学級を閉鎖することを決めた理由が、例えば、そのために雇用する常勤の教員の人件費の負担が経営を圧迫しているのを解消するということにあったとしても、不採算部門の「リストラ」をはじめとする構造改革の断行は経営者の判断として当然あるべきことであり、批判は免れないにせよ否定されなければならないわけではないかもしれない。
でも、このドラマでは、どういうわけか、そうした金銭に関する話が(今のところは)出てこない。それどころか、金銭の問題があるから院内学級を閉鎖するというわけではないらしい。その証拠に、院内学級を閉鎖する理由はあくまでも面積の問題に過ぎないと説明された。太川絹(小林聡美)が経営者に対して確認したように、閉鎖の理由は、あくまでも、最新の医療のための体制を整備するためには場所が必要であり、しかるに院内学級に使用されている場所の他には適当な場所がないから、院内学級を閉鎖するしかないということにある。そうであるなら石原参太朗(大泉洋)が主張したように、場所の問題を解決できれば院内学級を継続できることになるはずだ。ところが、経営者はそれには肯かなかった。閉鎖を決めた経営者の本音は、もう少し別のことも含んでいるのだろう。しかもそれは金銭の問題ではないらしいのだ。何れにせよ、この件について検討し考量し判断するのに必要なだけの材料は、吾等視聴者にさえも未だ与えられていないかと思われる。
劇中の病院の従業員も入院患者も、視聴者以下の材料しか持ち合わせていないはずだ。そうした中で各自が判断し行動している。
八重樫守(神木隆之介)も、和田雅樹(須賀健太)も、田中香(高良光莉)も、他の年少の児童生徒たちも、院内学級の閉鎖という彼等にとっては本来は我慢ならないはずの事態を、敢えて我慢して受け容れることに決めた。子どもたちの生命を救うためには最先端医療の設備を導入する必要があるのだ!という説明に心動かされたからだ。既に解雇された石原が今でも職員ならぬ見舞いの客として病室に来てくれて事実上の院内学級を続けてくれているという事実も、八重樫と和田の判断に影響作用したに相違ない。彼等は、彼等に与えられているだけの材料で最善の判断をしたと云えるだろう。
だが、限定条件下の最善は、それ自体として正であるとは限らない。そもそも彼等は、院内学級の閉鎖ということを、単に、学級=教室として固定された場所の喪失、不安定化、単なる流動化として解している恐れがある。教室という常設の場所なんかなくても、どこででも学級はできるのだ!と。確かにあの経営者は、単なる場所の問題、面積の問題と称して院内学級の閉鎖を宣言したが、本音がそれだけではないのは明白であるように思われるのだ。改革の真の狙いは何だろうか。一般に、改革が善であることは少ない。