仮面ライダーW(ダブル)第四話

東映仮面ライダーW(ダブル)」。
第四話「Mに手を出すな/ジョーカーで勝負」。
脚本:三条陸。監督:諸田敏。
謎のカジノ「ミリオンコロッセオ」において主宰の加賀泰造(我修院達也)にトランプの「ババヌキ」で勝負を挑んだ探偵青年の左翔太郎(桐山漣)が最高に格好よかった。だが、それは、札を敵の顔に目掛けて飛ばして「残った札は要らねえ。俺自身がジョーカーだからな」という台詞で決めた瞬間だけの格好よさではない。一つの事実を知ったことから来る苦悩がその前提だ。
翔太郎のトランプ対決に先立って加賀にルーレット勝負を挑んだのは、翔太郎の相棒フィリップ(菅田将暉)だった。「超天才」の彼はルーレットにおける玉の動きを精密に計算して快調に勝ち進んでいたものの、彼の弱点が「我が家」「家族」という語であることを察知していたと思しい加賀の仕掛けてきた心理戦によって調子が狂い、計算に集中できなくなった。そうして負け続けた末の、最後の一戦がトランプ対決。ここで負ければ全てを失う。しかも翔太郎には賭け事なんか到底できそうもない。
明らかに勝ち目のない無謀な勝負であることを見て取った相棒フィリップが止めさせようとしたとき、翔太郎は云ったのだ。「俺は、たとえ無謀でも、おまえを守って勝負すると決めた。だから結果がどうだろうと悔いはねえ。おまえは、おやっさんから託された大事な相棒だからな」。
実のところ、この瞬間に至るまで翔太郎は悩んでいたのだろう。彼は(先週の第三話において)仮面ライダーWとして戦闘している間、換言すればフィリップと意識を一つにしていた間、フィリップが「我が家」「家族」という語に関して問題を抱えていることを知った。それ以来、悩んでいるフィリップのために何とかしたいと思いながらも、何もしてやれないでいることに悩んでいた。フィリップがミリオンコロッセオで勝負することを宣言したときも、勝負していた間も、翔太郎はフィリップを心配していた。フィリップも、選手交代して翔太郎が最後の一戦に挑んでいた間は翔太郎を心配していたが、それ以前には翔太郎こそがフィリップを心配していたのだ。
今朝の話の冒頭、翔太郎がフィリップを何とか激励しようとして、逆にフィリップから「やめてよ、急に兄貴風吹かされても困惑するだけだ」と反発されたあとの、どうすればよいのかも分からなくなっていた混乱の状態は、その後、ミリオンコロッセオへの討入を宣言して自信満々だったフィリップの様子を見ることで逆に苦悩の度をさらに深めたと見える。そのとき翔太郎は、どうすることもできなくて投げ遣りにさえなっていたが、選手交代して自ら勝負に挑み、苦戦の中「よい顔をするな、恐怖する負け犬は。これだから賭け事は止められないんだ」と笑われる程に焦っていた瞬間、「決断」して、混乱と苦悩とを乗り越えたのだろう。
翔太郎は「おやっさんから託された大事な相棒」を守るためなら勝負の末にどうなろうとも悔いはない!と決断した瞬間、「二人で一人」という真理を再発見した。それが二人に勝利をもたらしたのだが、見落とせないのは、翔太郎の決断の本質をなすのが「二人で一人」という真理に他ならないことを翔太郎に想い起こさせたのが意外にも鳴海亜樹子(山本ひかる)だったことだ。仮面ライダーWに変身しての戦闘中にも、加賀泰造=マネードーパントは「家族」というキーワードで攻撃を仕掛けてきたが、フィリップは「家族?それなら代わりがある。一寸冴えないけどね」と云いながら翔太郎と鳴海の二人を思い浮かべていた。鳴海と彼等との付き合いは短く浅いとはいえ、今回ミリオンコロッセオで、翔太郎のカード勝負に対して後ろ向きだったフィリップを叱りつけたのが鳴海だった上、翔太郎に重大なヒントを(それとは気付きもしないままに)与えたのも鳴海に他ならなかった以上、翔太郎とともに鳴海までも新たな家族の「代わり」になったのは、必然の帰結であると云えるだろう。
フィリップの弱点としての「家族」の問題は、決して解決したわけではない。今後も火種として燻り続ける可能性はあるが、取り敢えずは解決の「代わり」を見出して克服されたのだ。しかも、この克服は、家族を崩壊させるギャンブルをめぐる事件に取り組んでゆく中で遂げられた。
このドラマの特徴の一つとして、私立探偵としての左翔太郎&フィリップ=仮面ライダーWは、街を泣かせる謎の事件を解明して、犯人を捕らえるところまでは己の仕事として引き受けるが、その後のことについては警察に任せるという点がある。私立探偵なのだから当然なのだが、このことは同時に、事件自体は人間の問題であり、ゆえに、たとえ悪者を退治したとしても、全てが元に戻るわけではなく、丸く収まるわけでもないということをも含意する(戦隊ドラマ等の場合、事件は魔物の仕業であり、魔物を退治すれば全ては修復されて丸く収まり、ゆえに警察の出る幕はない)。今回の事件で云えば、犯人の加賀泰造=マネードーパントは確かに酷い奴だったが、被害者もまた決して褒められる人々ではなかったわけで、ギャンブルにのめり込んで全財産をなくし家族を破壊した上に生命力までも没収された彼等は、マネードーパントから解放されて生命力を取り戻すことだけはできても、家族との絆を修復することは(依頼者の場合は偶々大丈夫だったが)できない場合も少なくないだろうし、何れにせよ失われた財産を取り戻すことはできないだろう。勧善懲悪の真の厳しさと云えるが、「ハードボイルド」と云ってもよいかもしれない。
須藤霧彦(君沢ユウキ)に対する秘密結社「ミュージアム」の園咲家の試練と、霧彦による克服、その後の結婚式のことも含めて、今朝の話は色々な意味で面白くて何度も見直してしまった。仮面ライダーWの活躍を目撃した街の人々がこの謎のヒーローを「仮面ライダー」と名付けて街の話題にしていたのも面白かったが、翔太郎とフィリップが「いかがはしい都市伝説」として自分たちが話題になっていることを喜んでいたのも面白かった。第一話も充分に面白かったが、そこから今朝の第四話にかけてさらに面白さが増してきている。マネードーパントの体型が所謂メタボ体型の造形として妙に「リアル」に見えるのも凄い。対する仮面ライダーW古代ギリシア・ローマ風の美麗な体型をしているのとは見事な対比をなしていた。