旅行記二国立新美術館ハプスブルク展&サントリー美術館和紙展&国立新美術館日展

四連休の二日目。旅行記二。
朝十時頃にホテルから外出。御徒町駅から有楽町、日比谷駅を経て乃木坂へ。六本木の国立新美術館で開催中の「THEハプスブルク 華麗なる王家と美の巨匠たち」を観照。
中世から近代十九世紀まで数百年間にわたり、神聖ローマ皇帝と諸国の王を数多く輩出したハプスブルク王家の人々の肖像画等のほか、イタリアのラファエッロ、ジョルジョーネ、ティツィアーノ、ティントレット、ヴェロネーゼ、ティエポロ等、ドイツのデューラークラナッハ(父)等、フランドル&オランダのブリューゲル父、ルーベンス、ヴァン・ダイク、レンブラント等、そしてスペインのエル・グレコ、ベラスケス、ムリーリョ、ゴヤ等、ルネサンスからバロックにかけてのヨーロッパ諸国の巨匠たちの傑作が並んでいて、もちろん何れも見応えがあった。
しかるに私的に最も興味深く見たのはスプランゲルの「ヘルマフロディトスとニンフのサルマキス」と「ケレスとバッコスがいないとヴィーナスは凍える」の二作品。前者では、螺旋状にねじるようなサルマキスの身体の所謂S字状の見事な曲線と、古代ギリシア・ローマ彫刻に基づいたものと思しい身体表現による美少年ヘルマフロディトスの逞しい肉体美が目を惹く。後者では、いかにもスプランゲル特有の、殆ど磁器のように硬質の滑らかさのある肌の表現が素晴らしい。
ジャンボローニャの原型に倣うアントニオ・スジーニのブロンズ像「ケンタウロスのエウリュティオンを打ち倒すヘラクレス」に見るヘーラクレースの御尻の盛り上がり方も美しかった。御尻で印象深かったのをもう一つ挙げるなら、フィアミンゴの大作「黄金時代の愛」の右上に見る男だろう。腰の動作を連想させる形をしている。
この展覧会における見所の一つは、明治二年、明治天皇オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ一世に贈呈した二冊の「風俗・物語・花鳥図画帖」(表紙には「画鑑」と書かれてある)に他ならない。狩野永悳立信・住吉広賢・服部雪斎・松本楓湖・三代歌川広重・豊原国周の六人の作によるこの「画鑑」二冊は数年前に発見され、東京文化財研究所の研究誌上に既に報告されていたが、それが早速こうして里帰りを果たしたのだ。誠に喜ばしい。参画した画家中の一人、住吉広賢は伊予松山侯松平隠岐守家(松山藩主久松家)に画師として仕えた遠藤広実の実子であり、狩野友信等とともにフェノロサの研究に協力した者の一人でもあり、近代大和絵の高取稚成の師でもある。しかし名のみ知られて作品が殆ど知られない画家でもあり、その基準作となり得るものを見ることができて誠に有り難いことだった。
観照すること約三時間。一通り見終えて売店で図録とチョコレイトを購入して会場を出て、地下の売店の奥の喫茶店でポークカレーとカフェラテと苺チョコレイトで遅めの昼食。相席の老男女は日展への出品者と思しかった。
二時頃に国立新美術館を出て、近所のサントリー美術館へ移動。鏑木清方展を開催しているものと勘違いしていたのだが、それが始まるのは今月十八日のことだった。折角なので現在開催中の展覧会「美しの和紙 天平の昔から未来へ」を、かなり急ぎ足に観照。英一蝶の「吉原風俗図巻」は、九月には板橋区立美術館の英一蝶展で見たが、早くも再会することを得た。
三時半頃、再び国立新美術館へ入り、折角なので「日展」も急ぎ足に観照。流れ作業で流し見て、気になるところで立ち止まるという方式。日本画では、三輪晃久の「秋興」、村居正之の「悠」、川嶋渉の「珊珊」等。洋画では佐藤祐治の「古城の村」等。彫刻では、徳安和博の「Spiral」、時光新吾の「戦士-若しくは最初の人と語られし男-」等。他にも目を惹いた作品は多かったが、絵葉書や生写真が売られていなかったので今それらの内容も作者名も確認できない。ゆえにここに書き出せない。
中で一点だけ、内容も作品名も作者名も憶えているのを挙げれば、洋画の新入選者、新潟の白井宏治による「街乗」。自転車乗りの若い男子が上半身裸でセクシーなポーズを取っている絵だったが、その上半身裸の表現が、いかにも現代的と云うか、今の若者ならではの徹底的に絞り込まれた逆三角形の肉体美の理想像、云わば当世イケメンの細マッチョな体作りを見事に造形化したものと見受けた。顔や髪型の造形も魅力的だった。
古来、容姿の理想像を提示することは美術の役割の一つだったはずで、オスカー・ワイルドの「自然が芸術を模倣する」ではないが、美術の中の理想体型が現実の体型をも変えてしまうことさえもあるのだ。そうした古典的な役割を現代流に果たしてみせた作品として見ることができるだろうか。
夕方五時半に会場をあとにして乃木坂を発ち、日比谷、有楽町を経て上野駅へ。駅の近くのカレー店で夕食を摂り、昨夜と同じくパン店で買物をしてホテルへ帰った。そういえば乃木坂と云えば、園咲霧彦こと君沢ユウキが「メイの執事」で演じていた役の名でもある。