傍聴マニア09第六話-北森夫(向井理)の探偵物語

日本テレビ系。ドラマ「傍聴マニア09」。第六話。
原作:松橋犬輔北尾トロ。脚本:田村孝裕。演出:本田隆一。
傍聴マニア史上最高傑作ではないだろうか。
傍聴マニアの北森夫(向井理)は、今回、証人として法廷に立った。傍観者が当事者になった衝撃の展開だが、もともと裁判には無縁の人生を過ごしてきたはずの彼が法廷に立った契機は、唯一、彼が傍聴マニアだったこと以外にはない。
被告人の右田玲(宮地真緒)は、自身の過去に関する秘密を病床の母には知られたくなくて、黙秘を通すことが不利にしかならないことをも覚悟の上で敢えて黙秘を続けていたのであり、友人に証人を依頼することなんかあり得なかった。高校時代の右田玲を「親友と呼べる女友達」と認識する北森夫が自ら証人になることを申し出ることができたのは、傍聴マニアとして事件の存在を知り得て、裁判において公表された事実が真相を全く反映していないことを察知し得た上、傍聴仲間たちの協力をも得ながら、「親友」を支援するための行動を起こすことができたからに他ならない。
見所が多かった中で一番の見所は、証人としての発言を終えて再び傍聴席へ戻った北森夫の、震えの止まらない右手を、彼の右側に座していた傍聴仲間の織田美和(南明奈)が優しく握り締めたとき、反対側に座していた傍聴仲間の山野鳥夫(六角精児)も真似して彼の左手を握り締めようとしたら、彼から払いのけられてしまったところ。最も真剣な、最も感動的な場面が一番の笑い所にもなっている。それにしても山野はどうして北の手を握り締めてみようなんて思い立ったのか。感動の場面に参加してみたかったのか、織田美和になり切ってその気分を味わいたかったのか(丁度「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラになり切ろうとしていたように)、それとも織田美和に手を握られた北の幸福感を邪魔してやろうとでも思ったのか。
右田玲は「こうなったのも、森夫の所為なんだよ」と「冗談」で云ったが、これは半ば「冗談」であるとしても意外に真実であるのかもしれない。なぜなら彼にとって右田玲は「親友と呼べる女友達」だったが、右田玲にとって彼は片想いの相手だったからだ。北森夫は自身を「頼りなくてショボイ男」だと思っているが、右田玲は彼を心の拠り所にしていたのだ。
このことは北森夫の人物像を浮かび上がらせる。彼は高校三年間を右田玲と一緒に過ごした親友として、「金にだらしなく、浮気する男」「稽古とかを平気で休むような男」を右田玲は恋人にはしないと確信している。多分その通りなのだろう。換言すれば、右田玲はその正反対の男として北森夫を見ているということに相違ない。そう考えてみると、彼は経済力以外は完璧な男であるのかもしれない。
彼は俄か「探偵」として事件を捜査した。どう見ても彼は真相を突き止めていたはずだが、法廷では「何も判りませんでした」と語り、その代わり親友に対する永遠の友情を誓った。右田玲にとって不名誉な要素を孕んだ事実を、右田玲自身に全て覚悟の上で納得ゆくように包み隠さず語ってもらいたいと期待したのだ。