古事記に出てくる淡路島の水

先の出張の初日の七月十四日の昼、淡路島、云わば「自凝島」で購入した「淡路島 御井の清水」という飲料水の、商品名の脇には「『古事記』伝承 まぼろしの名水」と書かれ、裏面には「御井の清水は古事記に『宮中で使われていた御料水』と記されている名水です。」とも書かれてあって、しかるに、それが古事記のどこにどのように書かれてあるというのか、少々気になっていた。そこで日本古典文学大系古事記 祝詞』(岩波書店)所収の古事記を下巻の最後の頁から眺め始めたところ、古事記下巻の冒頭を飾る仁徳天皇伝の最後を飾る段(第六段)に該当する記事があった(pp.282-283)。
その「枯野」の段を丸ごと引用しておこう。「此の御世に、免寸河の西に一つの高樹有りき。其の樹の影、旦日に当れば、淡道島に逮び、夕日に当れば、高安山を越えき。故、是の樹を切りて船を作りしに、甚捷く行く船なりき。時に其の船を号けて枯野と謂ひき。故、是の船を以ちて旦夕淡道島の寒泉を酌みて、大御水献りき。茲の船、破れ壊れて塩を焼き、其の焼け遺りし木を取りて琴に作りしに、其の音七里に響みき。爾に歌曰ひけらく、 枯野を 塩に焼き 其が余り 琴に作り かき弾くや 由良の門の 門中の海石に 触れ立つ 浸漬の木の さやさや とうたひき。此は志都歌の歌返しなり。」(日本古典文学大系古事記 祝詞』p.283)。文中「大御水」は「天皇の飲料水」の意で「おほみもひ」と訓まれる。これが「御井の清水」に訛ったのだろうか。