GOLD第十話

フジテレビ系。木曜劇場「GOLD」。第十話。
早乙女洸(松坂桃李)が水泳選手として復活を遂げた。彼の母の早乙女悠里(天海祐希)のみならず弟の早乙女廉(矢野聖人)までも、最初からそうなることを期待して芝居を、否、「賭け」をしていたと思しい。
ここで考察されるに値するのは、早乙女洸の怪我をどう見るか?という問題だ。これについては次週の最終回で説明があるのか知らないが、現時点で云えることは、恐らくは身体上の傷は大したものではなかったろうということだ。競技場に姿を未だ見せない早乙女洸のことを思って早乙女悠里が「何とか立ち直って欲しい」と祈っていた以上、彼の症状は彼自身の決意一つで何とかなり得るものだったことが明白だからだ。
怪我という程のこと自体もなかったのか、あったとしても二三日間の静養で完治する程度のことだったのか。神代麻衣子(南沢奈央)の超能力で傷が消え去ったわけではないだろうが、身体の傷ではなく心の病に関してはその超能力で癒された面はあったろう。早乙女悠里が、長男の心の健康について情報を得るため神代麻衣子を彼の許へ派遣したのも、心の傷を癒して運勢を上昇させる超能力に期待したからでもあったに相違ない。
現時点で容易には解き難い難問は、一体、次男の早乙女廉は兄の不健康が身体上のものにはあらず心の上に生じたものであることをどこの時点で知り得たのか?ということだが、「世界一のマザコン」を自称する彼が母の狙いを正確に理解し、母の行動原理と一体化して行動して、そして母に「自分の子どもを信じてください」とまで告げることができたことから考えて、恐らくは第一報の時点で既に見抜いていたろうと推測するしかない。家族を愛して家族を信じる彼は、兄がどのような人間であるかを正確に理解した上で、事実としてではなく確信として、兄の病を看破し、同時にその直し方をも見定めたのではなかったろうか。
部下も家族も情け容赦なく切り捨てるような冷酷非情の人であるかのような言辞をなしては周囲から恐れられている早乙女悠里が、実際には部下も家族も、遠ざけることはあっても切り捨てることはしないのは、過去の数話において描かれてきたかと思う。今宵の前半の、会社経営におけるリストラの問題に関する演説において初めて表明されたわけではない。そうである以上、長男と長女に失望して諦めて次男のみに期待をかけて賭けるという(視聴者から見ても甚だ違和感のある)思考や行動が、早乙女悠里の真の選択肢ではあり得ないことは、早乙女廉には固より明白だったのだろう。
これを要するに、早乙女悠里と早乙女廉の間には、早乙女悠里の想像をはるかに超えた早乙女廉の洞察と決死の決断と行動力によって、早乙女悠里自身も気付かぬ間に、家族の結束を回復するための奇跡的な、云わば共犯関係が成立していたのだ。