黄金の豚第八話

日本テレビ系。水曜ドラマ「黄金の豚-会計検査庁特別調査課」。第八話。
詐欺師として逮捕歴のある堤芯子(篠原涼子)を会計検査庁特別調査課へ調査官として招き、また、工藤優(岡田将生)を内閣総理大臣秘書官へ転出させた張本人、久留米勲(宇津井健)が狙っていた敵は、民間人だった彼を会計検査庁の意思決定機関を構成する検査官三名中の一名として起用した内閣総理大臣、樫永慎一郎(伊武雅刀)その人に他ならなかった。他方、樫永慎一郎の側も飼い犬に手を噛まれようとしていることを十分に自覚した上で、むしろそれを利用してやろうと企てていたらしい。
そうした中で、久留米勲と同じく検査官三名中の一名である茶々万史郎(近藤芳正)をどう見るべきだろうか。先週までは徒に悪役のように描かれてきた人物であり、ゆえに次週の最終話において再び悪役になる可能性も皆無であるとは断言できないが、今週の第八話を見る限り、先週までの彼が悪役のように見えていたのは誤解だったとしか思えない。
思うに、彼の人物像のこの揺らぎは、彼の公人としての立場の揺らぎ易さに起因するのではないだろうか。そもそも彼は久留米勲とは異なり、官界出身の検査官であり、ゆえに官僚の立場を弁えて働いているはずだ。政治の特別な意思によって特別に任官した久留米勲とは異なり、彼は政治の領域には決して踏み込まないように、慎重に仕事をしてきた。先週までの七話を通して彼が悪役のように見えていたのはその所為に過ぎない。想い起せば、特別調査課長補佐だった明珍郁夫(生瀬勝久)の立場もそれと似たようなものではなかったろうか。換言すれば、明珍郁夫が密かに抱いていた志を、大先輩である茶々万史郎もまた同じように抱いていたとしても、何ら不自然なことはない。彼の保身は、実は彼自身の保身であるよりは、むしろ大勢の部下たちの安全の確保の道ではなかったろうか。
角松一郎(大泉洋)や金田鉄男(桐谷健太)が究明し正そうとした不正経理の数々は表面上は官僚たちの悪事だったが、その背後に政治家たちの意思や欲望があったに相違ないことは、先週の第七話における外交官の不正が物語った通りだろう。だからこそ茶々万史郎は彼等の調査活動をなるべく抑制しようとしたのだ。それは政治権力による弾圧から部下たちの生命を守るための判断に他ならない。
金田鉄男が工藤優を、堤芯子のために殴り倒した場面では、工藤優が余りにも憎らしく、ゆえに金田鉄男が余りにも恰好よかった。もともと岡田将生は無表情でいるときは極めて美しく、笑顔になると少々邪悪に見える顔立ちをしているので、それがこの場面における工藤優の憎らしさを表現するには極めて効果的だったと云えるかもしれない。