金曜ナイトドラマ13歳のハローワーク第四話

朝、楼閣の七階にある玄関を出て見れば眼前の眺望が雪景色だった。
ところで。
金曜ナイトドラマ13歳のハローワーク」。第四話。
今回、小暮鉄平(松岡昌宏)が二十二年前の世界へ飛んで、そこで目撃した仕事は、漫画家と、スーパーマーケットの惣菜売場。漫画家を志しているのは、予備校に通わされて受験勉強に励みながらも大好きな漫画を描き続けてもいる十三歳の少年、岡島正人(高杉真宙)で、総菜売場でトンカツ等を販売しているのは彼の尊敬する父(梶原善)。父子にはそれぞれ互いへの愛があり、仕事の現状又は志望について父子それぞれの思いがある。そうした中で、商売の現実は厳しいとはいえ商売のために己の本心に反してよいか?それで己の人生を愛することはできるのか?というのが父子がともに直面した問題だった。
小暮鉄平は二十二年後の世界から来た以上、それまでの間に岡島正人が漫画家としてどのような苦難と結末を迎えるかを知っていたから、どうしても岡島正人に対して、本当に己の本心に正直な選択をしようとしているのか?それで満足し納得することができるのか?を執拗に問わずにはいられなかった。
問われると同時に自ら問うて岡島正人は別の選択を決断し、これによって彼の運命は微妙に、しかし大きく変更され、二十二年後の岡島正人(岡田義徳)は、漫画家としての成功も名声も一度も経験したことがないことになってしまったが、反面、今なお漫画家を志し続けることができるようになった。小暮鉄平の言動は二十二年前の人々に様々な影響を及ぼして、それぞれの将来を決して大きくは変えないにせよ、微妙には変容させてきたが、今回の変化は最も大きかったと云えるだろう。
二十二年前の世界に飛ばされてきた小暮鉄平は、自身が二十二年後までの間に既に目撃した岡島正人の未来を思っては十三歳の岡島正人に何を語りかけるべきか悩んでいたとき、二十二年前の世界の本来の小暮鉄平である十三歳の無邪気なテッペイ(田中偉登)は、またしても漫画家という職業を急に夢見始めて、まるで自身も漫画家になれるかのように思い込んで舞い上がっていた。
そんな様子を見詰めて笑んでいたのはテッペイの親友、三上純一中川大志)。今回の彼には五回もの出番があった。先ずは予備校の教室内、皆で岡島正人の描いた漫画の原稿を見てその上手さに盛り上がっていた場面。このとき三上純一もその作品の魅力について楽しそうに語っていた。実は彼もまた岡島正人が漫画家として成功してくれることを夢見ていたのだ。
次は、岡島正人が週刊誌「少年ジャンパー」編集者からデビューの条件として出された無茶な注文を引き受けるべきかどうかで悩んで、予備校の教室内で皆に相談していた場面。能天気なテッペイが是非とも引き受けるべしと主張したのは当然だが、三上純一もテッペイに同調して「俺も悪い話じゃないと思う」と満面の笑顔で述べていた。ここで注目すべきは二十二年後には投資家として名を馳せるはずの村山和夫武井証)が、印税の話を耳にした途端、岡島正人のための助言者になりたいと云い出したところ。第二話で活躍した彼がここで再び特性を発揮したのが面白い。
悩んだ末に、漫画家としてのデビューを賭けて頑張ってみることを決めた岡島正人。テッペイはアシスタントをつとめたいと云い出したが、小暮鉄平は彼には受験勉強をさせたかったので力ずくで帰宅させた。授業の終わった予備校の教室内で小暮鉄平との喧嘩を始めたテッペイの様子を、教室の外の廊下で立ち止まって見詰めていた三上純一。これが今宵の三回目の彼の出番。
仕方なく帰宅することにしたテッペイは、漫画家として成功した暁にはファンのために格好よいサインを書いてやることができるようになるために、歩きながらサインの形を考案し始めた。漫画を描けるわけでもないのに漫画家として成功する将来のことを考えることができるのがテッペイの流儀。そんなテッペイを温かく優しく見守っていた三上純一。今宵四回目の彼の出番。長身な彼は小柄なテッペイの肩に腕を回し、抱くように身体を密着させ、テッペイの手元を見詰めて笑んでいた。漫画を描いたこともない内から漫画家として成功することを夢想して、サインだけを書こうとしているテッペイの馬鹿さ加減を女子たちが馬鹿にして、テッペイが怒って走り去ったとき、その後ろ姿を楽しそうに見詰めながら三上純一は「子供だねえ」と呟いていた。
ここで気になるのは、楽しそうにテッペイを見詰める笑顔の三上純一を、一人の女子が怖い顔で睨んでいたこと。テッペイを見て笑顔の三上純一と、それを睨みつける険しい女子との対比の構図は何を物語るのだろうか。
そして今宵の五回目の三上純一の出番は、岡島正人の挫折の場面に来た。十三歳で実現しかけていた岡島正人の夢が破れてしまったらしいと判明したとき、予備校の同級生は皆、この現実に対してそれぞれなりの反応をしてはいたが、どのような反応も全て、現実をどのように受け止めるべきかについて動揺し、落ち込んでいることの表出だった。
上純一は「現実を思い知らされて、目が覚めたんだよ」と説明した。教室内を満たしていた多くの感情の説明でもあるが、自身の感情の説明でもある。いつになく冷たい友のこの語に驚いたテッペイが「三上?」と聞き返したとき、彼は「正人だって、一瞬でも夢見れたんだから、よかったじゃん」と続け、見詰めるテッペイの眼を見詰め返したあと、悔しそうな、寂しそうな顔で教室から出て行った。彼には何か、一瞬たりとも夢見ることのできない夢があるのだろうか。その夢には、彼がテッペイをいつも見詰めていることにも何か通じるところがあるのだろうか。