金曜ナイトドラマ13歳のハローワーク第八話

金曜ナイトドラマ13歳のハローワーク」。第八話。
主人公の小暮鉄平(松岡昌宏)が二十二年前の世界へ飛ばされて、そこで遭遇した当時の彼自身、十三歳の無邪気なテッペイ(田中偉登)にとっては一番の親友であるはずの、三上純一中川大志)の意外な行動をどのように見るべきだろうか。
小暮鉄平が「液体唐辛子連続強盗事件」と名付けた事件の主犯が三上純一であるのは事実だった。ゆえに彼は警視庁の佐々木紀夫(小松和重)に逮捕された。しかも彼が保身のために親友のテッペイをも事件に巻き込んだのも事実だった。テッペイの友情は踏みにじられていた。彼の行為が悪事だったことを否定することはできない。とはいえ、彼が「液体唐辛子連続強盗事件」において標的にした連中はインサイダー取引によって不当に大金を儲けていた上に、その金を無益で無意味な快楽だけのために浪費していたのだ。そのような連中には天誅があって然るべきだろう。世間に「愛国無罪」という語もあるようだが、三上純一もまた悪党ではあっても義賊であり、義士でさえある。彼を単純に断罪することはできない。
学業においてもスポーツにおいても比類なく優秀で、社会正義への志もあって、そのまま歩んでゆけば必ずや華やかな将来を獲得できていたに相違ない三上純一は、十三歳のこの逮捕によってその道を失ったに相違ない。高い志を極めて未熟な形で実行しようとしたのだから仕方がないと云わざるを得ないかもしれない。だが、連続強盗事件の「被害者」はどうなるのか。十三歳の小さな義賊だけを断罪しておきながら、証券取引法金融商品取引法)に違反する犯罪によって汚い利益を貪った屑のような連中を見逃してやるような社会が、健全であると云えるはずがない。
犯行の動機について小暮鉄平から聴かれた三上純一は「退屈だったから」と応えた。これを単なる暇潰しのために悪事をなしたという意に解しておいてよいだろうか。彼がどのような連中を倒したいと考え、どのような人を救いたいと思ったのかを踏まえるなら、彼の「退屈」とは、志や努力が大して報われるわけでもないのに、志もなく努力もない連中が無意味に恵まれる状況への形容ではなかったか。恐ろしいのは、そうした意味における「退屈」がバブル経済の崩壊の後も継続し、悪化し、今日さらに深刻化し続けているとしか思えないところだ。デフレ下の消費税増税はその象徴だ。
第四話における三上純一の「現実を思い知らされて、目が覚めたんだよ」という語の意味は、今や明らかだろう。「退屈」を生じる社会の閉塞感に、あらためて失望していたのだ。
上純一がテッペイを事件に巻き込んだ理由も、果たして本当に保身のためだったのか。彼自身が小暮鉄平にはそのように述べたが、むしろ本音はテッペイと一緒に行動し、秘密を共有したいということ、テッペイであれば信頼できるということにありはしなかったか。そのような解釈の余地が残っている。
小暮鉄平は、街の愚連隊に襲われそうになっていた三上純一とテッペイを、身を挺して守ったが、テッペイは、三上純一を警察へ突き出そうとした小暮鉄平から身を挺して守ろうとした。小暮鉄平とテッペイは似ている。同一人物なのだから当然ではあるが、長い歳月は人を変え得るにもかかわらず両名が二十二年間もの歳月を経てもなお似ているのは、人の未来を守りたいという天性の志があるからだろう。
今回の小暮鉄平が目撃した職業は警察官だったわけだが、無論この仕事を彼は既に知っている。彼が目撃したのは、二十二年後に彼の上司、警視庁芝浦警察署生活安全課長になっている佐々木紀夫(小松和重)の、若かったときの元気で格好よくて頼り甲斐のある仕事振りだった。
他方、真に目撃者となったのはテッペイと高野清文(横山裕)だった。両名は「液体唐辛子連続強盗事件捜査本部」と称して警察の真似事をする中で小暮鉄平の本来の仕事振りと人柄を目の当たりにした。少年を犯罪から守る「生活安全課」の仕事が小暮鉄平の天職であることを、やがて警察庁の幹部として小暮鉄平の様子を観察することになる高野清文(古田新太)は多分このときから確信しているに相違ない。テッペイもそのように感じたかもしれないが、三上純一を守れなかった悲しさと悔しさがその予感を曇らしているだろうか。
上純一の犯行を目撃したときのテッペイの、この世の終わりを知ったかのような落ち込み方。そして三上純一の裏切りを高野清文から教えられたときの、一瞬は打ちのめされたように項垂れつつも沈黙のあとに悲しさを呑みこんで顔を上げて、たとえ友に踏みにじられようとも「三上の役に立てるなら、それでも良いよ」と言い切ったときの決意の顔。そして三上純一の逮捕のあとの、警察という仕事への失望と、将来の自分自身である小暮鉄平に対する「さっさと消えろよ!」という怒り。
先週までの七話を通して描かれてきたテッペイのあらゆる魅力が存分に描き尽くされた第八話だった。謎めいていた三上純一のこれまでの言動にも、(テッペイに対する特別な好意に満ちた言動を除けば)意味が与えられた。
しかし、テッペイはどのように立ち直るのか。三上純一には再生があるのか。傑作ドラマの真価を問う次週の最終回には注目せざるを得ない。