金曜ナイトドラマ13歳のハローワーク第九話=最終回
金曜ナイトドラマ「13歳のハローワーク」。第九話=最終回。
主人公の小暮鉄平(松岡昌宏)が警察官の職に就きたいと志望するようになったのは、二十二年前、中学校において一人の大学生(細田よしひこ)が起こした立てこもり事件に巻き込まれ、人質になって怖い思いをしていたところを、警視庁捜査一課の老刑事(竜雷太)に救出されたからだった。第一話ではそのように描かれた。
ところが、小暮鉄平が二十二年前の世界へ飛ばされて以来、多くの少年少女に向き合い、様々な事件を解決した末に、今回ついに、当時の彼自身である十三歳の無邪気なテッペイ(田中偉登)を見舞うはずの立てこもり事件の予防にも取り組んだ結果、事件が防止されるのではなく変化した形で発生したが、そのことは小暮鉄平の志望をも変化させたのだ。
事件の舞台は中学校ではなく、いつもの予備校へ変わり、恐らくはそれに伴って、老刑事は現れず、代わりに頼りない若い刑事が現場を仕切った。
小暮鉄平は高野清文(横山裕)を伴って現場へ飛び込み、犯人に語り掛け、テッペイを救出することには成功したが、高野清文を庇って負傷するに至った。小暮鉄平の憧れのあの貫録ある老刑事の役割を、小暮鉄平自身が担った。テッペイは小暮鉄平に最高の「ヒーロー」を見出した。テッペイ=小暮鉄平は二十二年後の自分自身に憧れて警察官を目指すことになったのだ。パラドクシカルな話で誠に面白い。
変化はそれだけではなかった。小暮鉄平は予て警視庁捜査一課の刑事になりたいと願望していたが、この事件の解決を機に、警視庁芝浦警察署生活安全課の仕事こそが自分自身の天職であると思うようになった。この変化を生じた原因の一つは無論、二十二年前の世界で当時の自分自身をも含めた多くの少年少女に接した経験にあるだろうが、もう一つの小さくない原因は、多分、テッペイを救出した恩人が、警視庁捜査一課の刑事から芝浦警察署の生活安全課の刑事である小暮鉄平に変化したということにあるだろう。時間旅行の悪戯とでも云おうか。
色々興味深く面白い最終回だったが、一つ注目に値するのは、テッペイの一番の親友である三上純一(中川大志)が無事に救済された点だろう。彼は警察で取調を受けたが、そのまま釈放された。被害届が出なかったからだった。被害届なんか出るはずもないということは先週の第八話の時点で既に予想されていたから、この展開には意外性はない。真のドラマはそのあとに来た。
三上純一の無罪を信じて警察にも彼の釈放を嘆願していたテッペイは、釈放のあとには三上純一に対する世間の冷たさを恐れていた。予備校の教室内でも、なかなか姿を見せない三上純一は皆の陰口の対象になっていたが、テッペイは、三上純一をどこまでも信じていること、皆にも信じて欲しいこと、だから今までと変わることなく接して欲しいことを熱烈に訴えた。この声は心に届いたようだ。漸く勇気を出して、しかし怯えながら予備校の教室に復帰して席に着いた三上純一のために、彼が休んでいた間の授業の内容をまとめた学習ノートを教室内の皆が提供した。ノートを提供できなかったのは唯一人、勉強の苦手なテッペイだけだった。
テッペイの迂闊さ、駄目さ加減を皆が笑ったが、もちろんテッペイの心を皆が知っていたし、誰よりも三上純一は知っていた。
第一話以来、三上純一は殆ど常にテッペイを見詰め、親しく接し、あるいは心配して介抱しようとした場面さえもあったが、結局その意味は、三上純一がテッペイを大好きであるということに尽きるようだ。三上純一は二十二年後、どのような大人になっているのだろうか。そこが描かれなかったのが心残りではあるが、三十五歳の彼を誰が演じるのがよいのか?と考えると、描かれなかったのが正解だろうか。