旅行記一/京都ギリシアローマ美術館

旅行記一。
五月の連休の季節には休日出勤を重ねて全く連休を取ることができなかったが、本日からは四連休。そこで、誕生日を空しく過ごさないためにも本日は遠出。早朝四時二十分に家を出てJR松山駅へ行き、始発にあたる五時七分発の岡山行に乗り、岡山駅を八時十三分に発って京都駅へ。大きな荷物を六百円の大型コインロッカーに預けて、地下鉄で北山駅へ行き、十時頃には京都ギリシアローマ美術館へ到着。
ここへ来たのは三度目だが、展示されている考古美術品は見る度に興味と理解と感銘を深める。二階と三階に多くある陶器の絵画(所謂「壺絵」)の数々の、青年神や英雄の優雅な身体を描く流麗な描線にも魅了されるが、この美術館の展示における一番の見所は何といっても、玄関ホールに隣接する最初の展示室の中央に堂々鎮座する大理石のヘラクレス像。物体としての寸法も大きいが、それ以上に身体の表現に具わる威力が大きい。
純粋に体型のみを冷静に観察するなら、特に無駄のない腰の辺を見る限り、意外に高校生アスリート程度の体型ではないのかとも思われるが、それがこんなにも重厚な迫力を生んでいるところに、身体表現に対する古代人の感覚の鋭さと表現の質の高さが表れている。現実の体型を見渡しても、無駄の多い身体はどんなに多く大きな筋肉を隠し持っていても筋肉の大きさや力を感じさせないが、無駄のない身体は筋肉の形や力を大きく強く感じさせる。この巨大な大理石彫刻の職人は、そうした肉体の美の力学について、正確な観察眼だけではなく洗練された思想をも知っていたに相違ない。見る程に驚嘆と感銘を生じる実に神々しい傑作で、これが国内で常設展示されている奇跡はもっと広く知られてよいように思われる。
二階に展示されている陶器の一つの、画の作者が世界の古典考古学会で「ニナガワの画家」と定義されているという事実は、明治の文化財行政界の傑物だった蜷川式胤の孫にあたるこの美術館の設置者、蜷川館長のコレクションの質の高さを証明している。感嘆するほかない。
朝に見たヘラクレスのトルソ大理石像を夕暮れの光でも見ることを得て、あらためてその圧倒的な美に魅了されたあと、夕方五時三十五分頃に美術館をあとにして北山駅へ。JR京都駅へ戻ってコインロッカーから荷物を取り出して近鉄の京都駅へ。七時一分の急行に乗って奈良へ行き、七時四十五分頃にはホテルへ入った。