パーフェクト・ブルー第十一話=最終回

宮部みゆきミステリー「パーフェクト・ブルー」。第十一話。
諸岡進也(中川大志)は、一挙に明らかにされた凄まじい真相を一体どのように受け止めたのだろうか。
なにしろ彼の兄である克彦(野村周平)は誰か悪い奴に殺害されたわけではなく自邸内の事故による死去だったとはいえ、その事故を引き起こしたのは彼等の父である三郎(近藤芳正)であり、しかも克彦の遺体を焼却したばかりか、その現場に進也をわざわざ呼び出して燃え上がる様子を見せたのも三郎の策だったし、予め山瀬浩(黒木辰哉)を殺害して遺書を偽造して自殺に見せかけ、克彦を殺害した罪を着せようとしたのも三郎の策だったのだ。
さらに非道いのは、克彦が野球選手としての将来や名声を投げ打ってでも、ドーピング剤「パーフェクト・ブルー」の真実を世間に公表しようとしたとき、父の三郎がそれを隠蔽するため、自邸内の階段を上がろうとしていた克彦を無理に引き留めた所為で克彦は階段から落ちて床で頭を打ち、出血して逝去したという事実だ。
克彦の正義の志を尊重して、無理に引き留めるような真似をしていなかったなら、そもそも発生しなかった事故であり、克彦の急死はなかったはずだ。それに、ドーピングの真相を早めに公表して、大勢の少年野球選手を人体実験に利用していた朝倉製薬の罪を暴いておけば、何人もの人々が殺害されずに済んだはずだ。
克彦を含めた大勢の少年野球選手に対するドーピングは、克彦等が望んだわけではなく、知っていたわけでもなく、また、周囲の人々が望んだわけでもなく、知っていたわけでもなく、施された当事者も関係者も全く知らぬ間に、朝倉製薬によって極秘に実施された悪質な人体実験でしかなかった以上、この事実を理由に少年野球選手の将来が台無しにされるとは考えにくい。
どう考えても、早めに公表しておくのが一番よかったのだ。
それなのに三郎は、朝倉製薬と利害関係があるわけでもないのに隠蔽を企て、その所為で最愛の長男である克彦を死なせたばかりか、その友人を殺害して犯人に仕立て上げ、友人による兄の殺人事件の目撃者に仕立てるために次男の進也に、愛する兄の無残な焼死の現場を見せ付けたのだ。最悪の、屑のような人物ではないか。
そんな屑のような人物の次男であるという事実それ自体が、進也にとっては辛いのではないだろうか。しかも進也の母の久子(菊池麻衣子)は、克彦が亡くなったあとは精神を病んで進也を憎み、やがて進也の存在を記憶から消去したのか、進也を克彦と間違えるに至っていた。克彦の事故死の現場を、久子は目撃していたというのに!どうして進也を憎み得たのか。話の最後には一応、久子が進也を思い出して、進也に謝罪し、和解したようだが、これは罪深い両親を許さずにはいられない程に進也が愛に満ちた少年であることを物語るだけだ。両親の非道を軽減して見せるに足る出来事ではない。
ともあれ、主人公の蓮見加代子(瀧本美織)と杏子(財前直見)と糸子(高橋春織)が植田涼子(古手川祐子)によって殺害されようとしていた現場へ、探偵犬マサに導かれてBARラ・シーナ店主の椎名悠介(寺脇康文)とともに進也も駆け付けて、悪い奴等を相手に大暴れをして蓮見家の人々を救出した場面は、今までの十話からは窺えなかった進也の真の格好よさを存分に発揮させていたし、母の久子から「克彦」と呼ばれた場面の進也の心の痛みや、兄の急死の真相と父の三郎の罪を知った場面の進也の怒り等、今宵の最終話には進也という人格の美を際立たせる場面が多かった。事実上の主人公だったと云うも過言ではなく、進也演じた中川大志にとっても、永く記憶に残る大きな仕事になったに相違ない。