仮面ライダーウィザード第四十八話

平成「仮面ライダー」第十四作「仮面ライダーウィザード」。
第四十八話「賢者の石」。
ソラ(前山剛久)は、人間「滝川空」だったとき既に連続殺人事件を犯していた快楽殺人鬼であり、とんでもない悪人だが、そんな彼でさえ、白い魔法使い=笛木奏(池田成志)に比べるなら犯した罪は小さかったとまで云えるのかもしれない。
なぜなら笛木奏は妻(「笛木京子」)を失い、一人娘の笛木暦(奥仲麻琴)を失った己の苦しみを解消するために、それだけのために、大勢の人間に絶望を与え、殺害してファントムにしたばかりか、ファントムを通じて多くの人間の生命を奪い、あるいは負傷させてきたのだからだ。その被害者はどれ程の人数に及んでいるのだろうか。計り知れない。
笛木暦は既に亡くなっていた。コヨミ(奥仲麻琴)は、かつてソラが云った通り、魔力で動いているだけの人形だった。身体の中には「賢者の石」という最上級の魔宝石が蔵され、その力で生きているが、賢者の石は絶えず魔力を注入しなければ維持できない性質を有していて、ゆえに魔法使いであるウィザード=操真晴人(白石隼也)の魔力がコヨミには必要だった。
魔法使いによる賢者の石への魔力の注入。操真晴人にはそれができて、笛木奏にはそれができないのは、前者が天然の魔法使いであるのに対し、後者が人造の魔法使いでしかないからだった。
笛木奏はもともとゲートでも何でもなかったのだろう。ゆえに、妻と娘を失って絶望したときにも、ファントムを生み出すことはできず、当然、ファントムを抑圧して制御して魔法使いになることもできなかった。そこで彼は科学の力で人造ファントムを生み出し、自らそれを身体へ埋め込んで、謎のファントム、「ワイズマン」と化した。ワイズマンからさらに白い魔法使いにまで変態し得たのは、ファントムであるワイズマンの力を人間である笛木奏が制御し得ているからだろうか。だが、そのファントムはそもそも自ら制御し得るように造り出したファントムである以上、制御し得るのが当然であり、インチキでしかない。
病院で無事に意識を回復した国家安全局〇課の木崎警視(川野直輝)によると、笛木奏は優れた物理学者で、医学や化学にも通じていたらしく、「その道では有名」だったようだが、「その道」とは物理学や医学の学界のことであるのか、それとも何か別の道であるのか。どのように「有名」だったのか。
ともかくも、笛木奏は恐るべき知力で錬金術に到達し、化物を生み出し、自ら化物に生まれ変わったわけだが、それによって生まれた白い魔法使いは所詮は人造の魔法使いでしかなく、天然の魔法使いであれば持ってるはずの能力を欠いていた。賢者の石を維持することができなかったのだ。彼は天然の魔法使いを生み出すために「サバト」を開催して大勢のファントムを生み出し、同時に大勢の人間を殺害したが、その悪夢のような光景の中に辛うじて唯一人、操真晴人という真の魔法使いを見付け出すことができた。物語はそこから始まった。
しかるに、操真晴人は常に自ら考えて行動しているし、メイジ一号である稲森真由(中山絵梨奈)も常に自ら考えて行動しようとしている。これには笛木奏も手を焼いているのだろう。両名とは異なり、メイジ二号として再登場した飯島譲(相馬眞大)と、メイジ三号と化した山本昌宏(川口真五)は、笛木奏によって完全に操られていると見える。注目に値するのは、メイジ二号の飯島譲が稲森真由を迎えに来たとき「ワイズマンがお待ちです」と告げたことだ。
このことは笛木奏が白い魔法使いであるよりはむしろワイズマンであることを表してはいないだろうか。
以上のようなわけで、物語における善も悪も全ては笛木奏=ワイズマン=白い魔法使いによって起動されていたことが判明したが、例外は、操真晴人の涙から生じたウィザードの「インフィニティ」と、「古の魔法使い」であるビースト=仁藤攻介(永瀬匡)の存在に他ならない。