スターマン第七話

ドラマ「スターマン -この星の恋」。第七話。
富士山の麓の、広くて小さな町の、山の中の洒落た一軒家の、祖母と母と三兄弟の三世代が同居している宇野家に、新たな若い「パパ」として迎えられた記憶喪失の謎の美男子、星男(福士蒼汰)が、漸く「宇宙から来た王子様」という存在の仕方へ純化されたのは、先週の第六話の結末だった。
今宵の第七話がそこからの再出発だったわけだが、そこにおいて新たに現れた星男の様子は、今までの星男の存在の仕方を再考させずにはいない問題を生じた。
見落とせない問題として(1)星男が地球に来る前の自身のこと、故郷のことについて記憶を保持しているらしいことがある。これは問題だ。なぜなら(2)星男に身体を占拠された達也(福士蒼汰)が復活する前までの、「記憶喪失」と診断されていた星男、通称「白星男」は、自身がどこから来た者であるのかも分からないような、確かに記憶喪失の状態にあったはずだからだ。(3)当時の星男は、身体の持主である達也の記憶をも完全に喪失していたが、(4)謎の発作を経て達也の身体が達也の精神を取り戻したとき、星男は達也の記憶のみを完全に取り戻した。(5)達也の精神と達也の身体を一体化させた者とは達也その人に他ならないが、面白いことに、彼は「白星男」として生きた数日間のことをも夢の中の出来事として微かに記憶し、好ましく思ってもいたらしい。ゆえに(6)彼は達也の人生を捨てて星男として生きてゆくことを選んだ。「黒星男」と通称される。(7)この選択には何の困難もなかったようだ。なぜなら言動の様式は身体の記憶に依存する面があるからだ。もともと「白星男」の行動(例えば皿洗いも料理も得意ではないこと等)は達也の今までの人生によって方向付けられてもいたと見られている。換言すれば、「白星男」の行動は「黒星男」の隠れた善性に支えられていたのかもしれないということだ。しかるに(8)達也は完全に逝去し、達也の身体は星男の有するところに帰した。
以上のように、劇中の描写を想起して拾い上げて綜合するに、今宵の第七話において活動し始めた星男は、「黒星男」ではないのは無論のことだが、実は「白星男」でもないということだ。なぜなら彼は「白星男」とは異なり、地球に来る前の記憶を完全に取り戻しているからだ。しかし同時に、彼は地球に来る前の異星の何者かと同一であるわけでもない。なぜなら彼の身体は地球の日本の東京の達也という人物のものであり、その身体には達也の人生を貫いた言動の様式の記憶が生きているからだ。解りやすく云えば、筋肉の発達の仕方は(遺伝や民族や文化に枠付けられるのに加えて)身体の持主の行動の蓄積によって左右され、強い個性を持つものであり、体型は人生の表出に他ならないということだ。星男が達也の身体を持つ限り、星男は達也の記憶をも引き受けている。
今宵から活動し始めた星男は、達也、白星男、黒星男に続く第四の星男であると見なければならない。
宇野家の長男の宇野大(大西流星)、次男の宇野秀(黒田博之)、三男の宇野俊(五十嵐陽向)の三兄弟の、星男に対する接し方の変化も面白い。黒星男に対する強気の接し方を経て、今や星男に対しては何の遠慮もなくなっている。三兄弟が星男との間に真に家族愛を感じることができるようになるためには、白星男との別れや黒星男との対決が必要だったということだろう。
今後の展開を予感させる新たな要素として、宇野佐和子(広末涼子)の偏頭痛ということがあった。今までの劇中にそのような描写があった記憶がないが、実母の柏原美代(吉行和子)の言から窺うに、これには頻繁に悩まされてきたらしい。しかるに星男は負傷した生き物を治癒して完全に再生させる力を有している。二つのことが結び付かないはずがなく、新たな激動を生まないはずもない。