実験刑事トトリ2第五話

土曜ドラマ「実験刑事トトリ2」。
第五話「秘密-ある小説家の死について」。
重い事件を見易くしてくれるのは「トトリくん」こと都鳥博士(三上博史)と「先輩」こと安永哲平(高橋光臣)との間の楽しい遣り取りだが、今回はむしろそここそが事件を極度に重くしていた。軽やかだったのは冒頭の、マコリン(栗山千明)の無茶な料理を擁護しようとした先輩がイチゴ味の歯磨き粉に言及したところ位だったろうか。
その後、事件が発生して捜査が始まるや、事件の関係者が「先輩の先輩」だったことから、先輩が冷静ではなくなっていることをトトリくんは疑い、先輩はトトリくんからの信頼を失ったことで既に失いかけていた自信をいよいよ失ったようだった。
この物語の常として犯人は必ずしも悪人ではなく、むしろ被害者が悪人である場合もあるが、今回は犯人の和久井社長(ムロツヨシ)のみならず遺体で発見された小説家の宮部先生(三谷六九)も悪人ではなかった。そもそも殺人事件は存在しなかった。悪人がいるとすれば、被害者に関して犯人との間に無茶な契約を結んでいた出版社の編集長(渡辺正行)しかいないように思われるが、もちろん彼が罪に問われることはあり得ない。そう考えると、出版社の会議室かどこかでトトリくんの質問に応じて楽しげに語っていた編集長が天丼か何かを貪り食べていたのは意味深く見える。刑事ドラマで昔馴染みの、取調室のカツ丼を連想させるからだ。
…と書いたが、よく思い出してみると、和久井社長は現場に残しておいた暗号によって巧妙にも浅草生まれ浅草育ちのアメリカ人(ロバート・ボールドウィン)に罪を着せようとしていたのだった。もちろん和久井社長は多分、あの暗号の嘘を直ぐに見破られようとは思ってもいなかったばかりか、そもそも暗号を解読されてしまうとさえも思ってはいなかったろうと想像されるが、もし暗号を解読され、しかも暗号の嘘を見破られなかった場合には、何の罪もない善良な強面の人が犯人に仕立てられてしまったかもしれないのだ。犯人が悪人ではなかったとは云えない。それでも、一番の悪人が出版社の編集長であるのは間違いない。
序でに云えば、話の冒頭、和久井社長が自室の隣の、大きな物音のした宮部先生の居室に入ろうとしたとき、偶々廊下を歩いていた上品な和服の御婦人(山口美也子)が、和久井社長から一緒に来て欲しいと急に依頼され、未知の隣人からの唐突な依頼だったにもかかわらず、何の疑問も抱かずに同行していたのも面白い。普通の人であれば拒否するだろうが、この御婦人であれば拒否できないかもしれないと思える。この人の他にも、謎の大富豪(小林勝也)や、日常会話に外国語を交える小説家(光浦靖子)のような浮世離れした人物が多く登場したことは、重い話を辛うじて軽やかにしてくれた。