仮面ライダー鎧武第九話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第九話「怪物インベス捕獲大作戦!」。
ヘルヘイムの森へ通じる時空間の裂け目を、ユグドラシルの研究所の呉島貴虎(久保田悠来)とプロフェッサー戦極凌馬(青木玄徳)は「クラック」と呼んでいた。現在、ヘルヘイムの森の「活性化」に伴ってクラック発生の頻度が高まってきているらしい。これに「対処」するには現行の人員では追い付かなくなるのが時間の問題であり、ゆえに呉島貴虎はプロフェッサー凌馬に「新型」の開発を急ぐべく促していた。
このことから判るのは、ユグドラシルはヘルヘイムの森の危険性や危機を察知し、これに対処するため研究所を設置し、武器を開発して対処してきたが、危機が増大化しつつある中で体制の強化を図っているということだ。開発されたのはもちろん戦極ドライバーであり、アーマードライダーという変身体であるに相違ない。呉島貴虎は自らそれを装着してクラック問題に対処しているが、これは極めて危険な、決死の覚悟を要する任務であり、彼の覚悟を支えるのは、世界の命運を引き受け、人類の未来を切り拓きたいという「情熱」にある。
そうした中、増大化する危機に対処するため「新型」戦極ドライバーの開発が進められているが、戦極ドライバーには、戦闘に加わることの危険性よりも前に、それを使用すること自体の危険性があるらしく、力が倍増すれば危険度も倍増であり、危険性の測定と解決のためには実験を要するらしい。そのための「モルモット」が、なけなしの金で戦極ドライバーをわざわざ購入してまでもインベスゲームにそれを利用している街のダンス集団、ビートライダーズの若者たちであることは、第五話において既に明かされていた。この実験の結果を活用して「新型」を開発しつつあるだけではなく、開発が成った暁にはその成否を測るための「被験者」としても彼等を利用することを、プロフェッサー凌馬は考えていた。
ところが、呉島貴虎は従来型の二倍も危険な「新型」の被験者をも己が引き受けるつもりであることを表明した。この強烈な使命感において彼は確かに正義の味方ではあるが、この使命感は強烈なエリート意識に支えられている。この優越感は、街の「負け組」の若者たちに対する差別を伴っている。ビートライダーズを「モルモット」にしても何の心の痛みも感じないでいるのはその表れだが、甚だ気の毒にも、彼に蔑まれている若者たちの群の中には、彼の溺愛する弟、呉島光実(高杉真宙)が紛れ込んでいるばかりか、既に「モルモット」の一人にまでも加えられているのだ。
ともかくも、ユグドラシルの呉島貴虎が危機感を抱かざるを得ない程に現在、ヘルヘイムの森は活性化し、クラックが頻繁に発生している。クラックから侵入してきた植物は凄まじい速度で繁殖し、こちら側にまでも新たな森を作り出そうとしている。呉島貴虎=アーマードライダー斬月と彼の率いる部隊は、クラックから侵入してきたインベスを退治し、繁殖しつつある森を焼却して消去する活動に精出しているらしい。
今回の第九話には面白いところが色々あったが、その内の最も表向きの一つは、アーマードライダー鎧武=葛葉紘汰(佐野岳)とアーマードライダー龍玄=呉島光実の率いるダンス集団「鎧武」が、クラック発生の危険性に独自に気付き、そこから侵入してきているインベスを退治するため独自に動き出した点にある。戦極ドライバーとロックシードによって出現するアーマードライダーの力を、ダンス集団間のインベスゲームに使用していただけの段階から、漸く、怖い奴等を倒すための戦闘に使用する段階へ進んだのだ。日曜の朝のヒーロー物語らしい物語の格好を漸く見せ始めたと云うこともできる。
だが、同時に、彼等が行おうとしていることを、既にアーマードライダー斬月=呉島貴虎が行ってきたことも明らかにされた。同じことを行ってはいるが、味方であるかは定かではない。そもそもユグドラシルの幹部である呉島貴虎自身も、ユグドラシルと一体であるかは定かではない。呉島貴虎の行動を支える情熱、使命感、滅私奉公、そして世界と人類と故郷と会社と家族、特に弟への愛を、ユグドラシルは都合よく利用し、利用し終えたあとは捨てて嘲るだけであるのかもしれないのだ。
さらに不穏な気配として、インベスとロックシードの発生は人間の死を前提しているようであることが殆ど確定しつつある。ヘルヘイムの森の樹の実を食べた人がインベスになるのか、あるいはもっと違った事情があるのかは未だ明らかではない。しかし何れにしても、ロックシードを用いてインベスを召喚することや、インベス同士を戦わせること、さらにはロックシードを用いてアーマードライダーに変身し、インベスを退治することは、昔は人間だったはずの者を道具として玩弄することに等しいのかもしれない。日曜の朝のヒーロー物語らしい物語の格好を漸く見せ始めた物語は、同時に、そこに潜んでいるのかもしれない何とも不穏な意味をも明るみに出し始めているのだ。
ヘルヘイムの森の樹の実とロックシードとの関係は、呉島光実によって明らかにされた。樹の実がロックシードに変貌するのは、戦極ドライバーを装着した者が樹の実をもぎ取った場合に限られる。戦極ドライバーを外した彼が樹の実を採ったところ、樹の実はロックシードに変容することなく、樹の実のままだった。ヘルヘイムの森の樹の実が自然であるとすれば、ロックシードは自然ではなく、戦極ドライバーによって造り出される人工物であると判明した。
このように自然と人為との別が意識され始めた今朝の第九話において、葛葉紘汰と呉島光実と高司舞(志田友美)があらためて、インベスとは何か、ヘルヘイムの森とは何か、ロックシードを作ったのは誰か、戦極ドライバーを作ったのは誰かを問いかけ始めたのは、今後への展望を表示する重要な意味を持つだろう。そして高司舞が今まで己等の興じてきたインベスゲームを振り返り、インベスの怖さも知らないままインベスを操って弄んできたことの恐ろしさを実感していたのは、今後の物語が見せようとしている恐ろしさを予告しているのだろう。
インベスの怖さは多分、高司舞の想像を絶している。なぜなら眼前の敵の前身は、行方不明の友であるのかもしれないからだ。