仮面ライダー鎧武第十三話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第十三話「鎧武、バロンの友情タッグ!」。
かねて葛葉紘汰(佐野岳)が恐れていた通り、ヘルヘイムの森へ通じるクラックの頻出はインベスによる侵略を多発させ始めた。これには予想外の、とんでもない副作用があった。インベスの攻撃を受けて負傷した人々が、ヘルヘイムの植物に身体を侵食され始めたのだ。侵食されて病院に運ばれ、苦痛に泣き叫んでいる人々の姿を、葛葉紘汰と呉島光実(高杉真宙)、高司舞(志田友美)は目の当たりにした。あの人々がどうなるのかは今回は直には描かれなかったが、第九話等の描写を想起するなら、容易に予想できる。侵食された末に身体は植物に乗っ取られ、植物は繁殖して樹木と化し、やがては新たなヘルヘイムの森を形作ることだろう。
もちろん呉島貴虎(久保田悠来)率いるユグドラシルの警備隊は、今まで通り、不穏な植物を完全に焼却して「隠滅」するに違いない。換言すれば、今まで隠滅されてきた植物は、クラックから侵入してきた植物だけではなく、インベスに襲われた被害者の成れの果てをも含んでいたかもしれないということではないか。
この異常事態を葛葉紘汰が放置しておいて良いと思うはずがない。正確な事実を知る呉島貴虎はもっと深く危機を認識しているはずだが、恐ろしいことに、彼から相談された「プロフェッサー凌馬」こと戦極凌馬(青木玄徳)は速やかに対処するのではなく、暫く様子を見ることに決めた。それどころか、さらに恐ろしいことに、彼と錠前ディーラーのシド(浪岡一喜)は、得意の「情報統制」によって、異常事態の責任を全てビートライダーズの青少年たちに転嫁してみせた。
この「情報統制」にDJサガラ(山口智充)は直接には関係しなかったらしい。しかも彼は、ビートライダーズの、アーマードライダーの若者たちには事態を変える可能性があるかもしれないと信じてもいるらしいのは興味深い。とはいえDJサガラの今までの活動によってビートライダーズがインベスを盛んに呼び出して妙なことをやっていたことは既に広く知れ渡っていて、そのことが、異常事態の原因を作ったのがビートライダーズであるという風説を流布させる基盤をなしたのは間違いない。
ここにおいて呉島貴虎が取った行動をどう取るべきだろうか。彼は高級ケーキ店「シャルモン」を訪ね、そこの経営者であり主席パティシエでありフランスの「軍曹」でもある鳳蓮・ピエール・アルフォンゾ(吉田メタル)を傭兵として雇い、他のアーマードライダーを退治させることにしたのだ。インベスの害悪を広めて多くの人々を苦しめる悪い奴等としての不良青少年連中、ビートライダーズ、ことにアーマードライダーを退治するアーマードライダーブラーボは自ずから「正義の味方」であると人々から見られ、歓迎された。実際にはブラーボはインベスを放置していて、従って、全く人々を救おうともしていないにもかかわらず、そのような情報だけが流され、束の間ではあれ、人々を踊らせた。狙いは何だろうか。ブラーボを「正義の味方」に見せかけることで仮想敵としてのビートライダーズの存在を強調したかったのは確かだが、同時に、このような馬鹿げた騒動を盛り上げ(云わば炎上させ)ることで、人々の眼を真相から背けたかったのか。しかし本質はもちろん、市井の素人アーマードライダーを本当に退治して、流通してしまった戦極ドライバーをこの機会に一挙に回収したかったのだ。
ともあれ、この呉島貴虎の愚かな作戦は思わぬ新展開を生じた。ブラーボの無益な攻撃の余波で負傷した子分のペコ(百瀬朔)のために仇を討つという思いをも込めてブラーボへの報復を誓っていた駆紋戒斗(小林豊)が、アーマードライダー鎧武=葛葉紘汰を助けてくれたのだ。鎧武とバロンの共闘が、ついに実現した。「ここからは、俺たちのステージだ!」という宣言が頼もしかった。
バロンがマンゴーを用い、鎧武がバナナを用いたのも面白かった。
だが、勇敢な鎧武、友情に厚いバロン、そしてゲネシス・ドライバーで強化された斬月という三人のヒーローの活躍は、初瀬亮二(白又敦)を発狂させた。
昨年の第十一話で戦極ドライバーを破壊されて変身能力を喪失したばかりか先週の第十二話では自身のダンス集団「レイドワイルド」を解散させられ、周囲の皆が敵ばかりであるかのようにさえ被害妄想を抱き始めていた彼は、何としても力を獲得したくてロックシードを求め、さまよい歩いた末に、クラックから侵入してきて繁殖していたヘルヘイムの果実を見出した。インベスがヘルヘイムの果実を食べて強化したのを見た彼は、インベスの真似をして自らヘルヘイムの果実、ロックシードの果実を食べた。そして視聴者の誰もが予想していたに相違ないが、人間はインベスに変貌した。
哀れな初瀬亮二が証明したのは、ヘルヘイムの果実を食べた者はインベスに変身するということ、換言すれば、インベスの前身は人間であるということだった。行方不明の角居裕也(崎本大海)が今どうなっているのかを、葛葉紘汰も、流石に感じ取らないわけにはゆかなくなるだろう。
他方、呉島光実は兄の呉島貴虎の真相をさらに探求せずにはいられなくなっていた。アーマードライダーがユグドラシルの研究開発のための「モルモット」であり、インベスゲームがそのための前提として仕組まれたものでしかなかったのであるとなると、そもそも、ビートライダーズとそれに熱狂する観衆という現象それ自体も、多大の被害を生じることの予想されたヘルヘイム開発の悪影響の責任を転嫁させるために敢えて作り上げられたのではなかったか?と考えるのが自然だからだ。