仮面ライダー鎧武第十八話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第十八話「さらばビートライダーズ」。
この物語の主人公、葛葉紘汰(佐野岳)は、物語の最初のときには、街で困っている人を見かければ手助けせざるをえなくなる熱血漢であるとはいえ、あくまでも各種のアルバイトに精出しているだけの普通の青年だった。そんな彼が、アーマードライダー鎧武に変身してインベスを退治し始め、さらには街を支配する大企業ユグドラシルとも対峙せざるを得なくなっているのは、彼がもともとビートライダーズと呼ばれる沢芽市内のダンス集団群の一人だったからであり、中でも有力なダンス集団である「チーム鎧武」の有力な一員だったからに他ならない。
要するに、物語はビートライダーズの抗争から始まった。
だが、物語はビートライダーズの抗争をはるかに超えていた。そもそも彼等の抗争を設定したのはユグドラシルであり、そこにインベスを持ち込んだのも、戦極ドライバーを持ち込んだのもユグドラシルであり、その目的は戦極ドライバーの量産化に向けて試作品の性能を観察するための実験にあった。
今朝の話は、ビートライダーズの抗争を終結させた。本人たちが終結を望んで集結したからだった。
高司舞(志田友美)、呉島光実(高杉真宙)の率いる「チーム鎧武」の呼びかけに応じて全ダンス集団群が結集し、皆で一緒に踊る「抗争終了宣言 合同ダンスイベント」を開催したわけだが、この開催のためには大きな難問を解決しておかなければならなかった。駆紋戒斗(小林豊)率いる「バロン」に対して他のダンス集団が抱く反感を抑えなければならなかったのだ。もともとダンス合戦を無用に激化させ、インベスゲームを利用したのは駆紋戒斗だった。ダンスを純粋に楽しめなくした元凶が駆紋戒斗だったわけで、その結果が、街の人々から敵視される現状である以上、駆紋戒斗の率いる「バロン」と一緒には踊りたくない!というのが、「チーム鎧武」と「バロン」を除く他の全てのビートライダーズの主張だった。
葛葉紘汰と高司舞からそのような現実を説明され、協力を求められた駆紋戒斗は、他の連中に謝罪する意なんかないと返答した。「所詮、ダンスなんて力を示すための手段の一つ」に過ぎないとまで云った。しかも「今となっては他にやることがある」。「バロン」で駆紋戒斗に次ぐ立場にあるザック(松田岳)はその場では駆紋戒斗の意に忠実に従ったが、ペコ(百瀬朔)は違った。葛葉紘汰と高司舞から「合同ダンスイベント」への協力を求められたとき、ペコだけは身を乗り出して興味を示した。そして駆紋戒斗とザックがそれを拒否したとき、ペコは黙って落ち込んだ。ザックも実は同じ思いであることは、葛葉紘汰を怒らせた駆紋戒斗を見詰めるザックの表情から窺えた。駆紋戒斗も同じだろうことは、高司舞を怒らせたときの彼自身の表情が物語っていた。
ここで事態を変転させた要因の一つは、鳳蓮・ピエール・アルフォンゾ(吉田メタル)の異常な行動だった。「合同ダンスイベント」開催の動きを察知した彼は、それを妨害するため、配下の城乃内秀保(松田凌)を巻き込んで、ビートライダーズ追放を訴える街頭宣伝活動を開始したのだ。街の人々は無関心だったが、インターネット上では大反響を呼び、ダンスのための「フリースペース」の廃止までもが言われ始めた。このままでは「合同ダンスイベント」どころか、街角でダンスを披露すること自体が禁止になりかねなかった。逆境を少しでも好転させ得る手があるとすれば、それは「抗争終了宣言」の「合同ダンスイベント」以外にはないと思われた。
そこでペコは駆紋戒斗を説得しようとした。ザックも呼応した。両名に対する駆紋戒斗の回答は「バロン」脱退の宣言だった。ビートライダーズの皆から敵視されている己一人がいなくなることで「バロン」への敵視を解消するのが狙いであるのは明らかだろう。駆紋戒斗は(一月二十六日放送の第十五話において)ユグドラシルで盗んできた量産化された戦極ドライバーを餞別としてザックに授け、「バロン」をザックとペコに授けて去った。
ザックとペコからこのことを聞いた葛葉紘汰は駆紋戒斗の真意を察知し得た。「バロン」を「合同ダンスイベント」に参加させるため、「合同ダンスイベント」を実現させて成功させるため、そして何よりも、ダンス合戦やインベスゲームのような遊びを止めて、真の敵に対峙するために駆紋戒斗は「バロン」を抜けたのだ。ヘルヘイムの森を探索して武器を調達していた駆紋戒斗を訪ねた葛葉紘汰は、「合同ダンスイベント」を成功させてビートライダーズの汚名返上を試みるという「ビートライダーズとしての最後の務め」だけを果たしてから、ともに行くつもりであることを伝えた。
そして「抗争終了宣言 合同ダンスイベント」の当日。
花火を上げて華々しく開会したが、ステージ上にいたのは「チーム鎧武」と「バロン」の面々だけ。集まった観客も数人だけ。閑古鳥の鳴く有様を、鳳蓮・ピエール・アルフォンゾは嘲笑した。
ところが、DJサガラ(山口智充)はその様子をインターネットで中継放送しつつ、街のビートライダーズ皆に決起を呼びかけた。これがDJサガラの従来の任務だったはずのユグドラシルの情報統制に反する行為であり、任務からの逸脱、造反でさえあることは、この放送を見ていた呉島貴虎(久保田悠来)の怒りの様子から判る。
鳳蓮・ピエール・アルフォンゾはダンスの妨害のため、配下の城乃内秀保にインベスをけしかけさせたが、もちろん葛葉紘汰はアーマードライダー鎧武に変身して「俺たちのステージ」を守るために応戦した。そこに、一緒にステージを守るため立ち上がったのは「バロン」のザック。量産化された戦極ドライバーと胡桃のロックシードを取り出して変身した。
ザックの変身の格好よさは特筆に値する。ダンスの振付と同じように綿密に考えておいたのだろう。この物語で最も格好よい変身であるのかもしれない。
名付けてアーマードライダーナックルと云う。胡桃のアームズであるからマツボックリの黒影やドングリのグリドンと似たようなものかと予想してしまうが、意外にも、驚嘆すべき戦闘力を見せ付けた。多分、ザック自身の身体能力、戦闘力を反映しているのではないだろうか。陰に隠れてインベスを操縦していた城乃内秀保が、ザックによってインベスを次々退治されて悔しそうにしていたのは、ナックル=ザックとグリドンの力の差を悔しがっていた面もありはしなかったろうか。
ナックル=ザックがインベスを退治し、鎧武=葛葉紘汰がブラーボを抑え付けている間に、「チーム鎧武」と「バロン」は合同ダンスを再開しようとした。そこへ、かつて初瀬亮二(白又敦)が率いていた「レイドワイルド」も、現在も城乃内秀保が率いているはずの「インヴィット」も、「POPUP」も、「蒼天」も駆け付けた。「チーム鎧武」のダンスはヒップホップダンス。「バロン」のダンスはジャズダンス。ジャズダンスで連想されるのはジャニーズだが、ペコ役の百瀬朔は実は元関西ジャニーズJr.の上仲百波であるらしいので、まさしく本領発揮。「インヴィット」のがパラパラであるのは城乃内秀保の人物像から肯けるが、驚くべきは、「レイドワイルド」のダンスがオタ芸であること。なるほど初瀬亮二が何時も力任せで戦っている感じだったのは、オタ芸に通じていたのか。
戦力を喪失してもなお姑息にダンスを妨害しようとしていた城乃内秀保が「インヴィット」の女子たちに発見されてしまい、ステージに押し上げられてしまったのは傑作だった。女子たちの誰一人として、リーダー城乃内秀保が「合同ダンスイベント」を妨害していたなんて思いも寄らない様子だったが、そうして一際高いステージの上に祭り上げられた彼も、最初こそ困った顔をしていたが、直ぐに一転、楽しそうにパラパラを踊り始めた。これで彼もブラーボ陣営を離脱するのだろうか。
ブラーボ相手に苦戦していた鎧武=葛葉紘汰に助太刀するため人知れず駆け付けたバロン=駆紋戒斗が「戦いは、まだまだのようだな」と言葉をかけたのは、葛葉紘汰が「最後の務め」を無事に果たして駆紋戒斗の「戦い」に合流してくるのを待っていたことを表していようか。
こうして駆紋戒斗も含めてビートライダーズが揃ったところで、鎧武=葛葉紘汰は「ここからは、みんなのステージだ!」と宣言した。ナックルはバロンに己の戦いを見せ、バロンはナックルの強さを信じ、鎧武はブラーボを懲らしめて、ダンスは盛り上がり、DJサガラのインターネット放送「ビートライダーズホットライン」には応援メッセージが殺到した。ユグドラシルが作り上げた世論の一角が崩壊した。
呉島光実が無邪気に喜びながら胸中で「この幸せが守れるなら、僕はどんな裏切りだってできる」と呟いていたとき、会場の外でブラーボとの闘いを終えて変身を解除して会場へ戻ろうとしていた葛葉紘汰の前には、ゲネシスのアーマードライダー四人衆の一人、アーマードライダーデュークが現れ、「お疲れのところ申し訳ないが、もう一度変身をしてもらいたい」と告げた。
その声の主は「プロフェッサー凌馬」こと戦極凌馬(青木玄徳)であると見受けるが、狙いは何か。次週を見なければならないが、予想することはできる。
戦極凌馬は、新改良の戦極ドライバーを「想像以上に」見事に使いこなしている葛葉紘汰に感嘆し、「良いデータが取れた」ことを喜んで、秘書の湊耀子に「本気の君と戦わせてみたいもんだ」と語りかけた。自信満々の湊耀子は「それではデータが取れなくなってしまいますわ」と言い返したが、「それは困るな」と軽く流した戦極凌馬は「そうなる前に、試してみようか」と呟いて、持っていた新開発の武器を見た。この短い会話から窺えるのは、戦極凌馬が、己の研究開発する武器の可能性を最大限に引き出し得る最良の「モルモット」を葛葉紘汰に見出していて、少なくともその点では、湊耀子よりも葛葉紘汰を高く評価しているということではないだろうか。