仮面ライダー鎧武第十九話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第十九話「贈られた秘密兵器」。
沢芽市のダンス集団群、ビートライダーズの騒動は、先週の第十八話で一つの終結を見た。数多いダンス集団は、ダンス披露の場として認められた「フリーステージ」を奪い合って勢力を競い、そのための手段としてインベスゲームを繰り広げていたことから、やがて発生したインベスによる人間への攻撃の事件に関して世間は彼等の責任を問い、敵視や忌避の対象にし始めた。そこで葛葉紘汰(佐野岳)、高司舞(志田友美)、呉島光実(高杉真宙)等の「チーム鎧武」は、駆紋戒斗(小林豊)率いる「バロン」のザック(松田岳)やペコ(百瀬朔)等とも手を結び、「抗争終了宣言 合同ダンスイベント」を挙行し、謎の男、DJサガラ(山口智充)の支援も得て成功させた。ビートライダーズはその本分に戻り、インベスゲームを捨て、ダンスの楽しみを取り戻すことを宣言したのだ。
今日の話はその後日談。そして新展開の予告でもあった。
ビートライダーズが抗争を止めることを宣言した途端、解散してしまったダンス集団が少なくなかったらしい。インベスゲームにしか興味のなかった連中、ダンスなんか楽しんでいなかった連中が少なくなかったのだ。なるほど、抗争が徒に激化したのも肯けるし、「レッドホット」のようにインベスを使役して犯罪にまで走った連中も出てきたのも肯ける。「抗争終了宣言」はそうした連中を一掃したということか(しかし彼等は他のステージを見付けて暴れ始めることだろう)。
奇妙な抗争に巻き込まれることなくダンスに専念できることを、高司舞は喜んだ。ペコも同じだろう。変な奴等に絡まれることがあっても、ザックが守ってくれるに違いない。そこで葛葉紘汰は「チーム鎧武」の「用心棒」を辞め、あらためてビートライダーズから卒業しようと決意した。だが、今回の葛葉紘汰の決意が、就職して一人前の大人になるための卒業ではなく、先にビートライダーズを脱退していた駆紋戒斗と一緒に、ユグドラシルの秘密に迫るべく戦い始めるための卒業であることは、既に多くを知り過ぎてしまった呉島光実には明白だった。
葛葉紘汰がビートライダーズを辞めてユグドラシルと戦い始めることを、呉島光実が止めたいと思う理由は幾つかある。先ずは(1)自分自身の幸福な場所を守るためには葛葉紘汰をそこへ留めなければならないということ。彼は葛葉紘汰を大切に思っているし、高司舞も葛葉紘汰を大切に思っていることを彼は知っている。しかし同時に(2)彼はユグドラシルが敵ではないと考えているということ。彼は既にユグドラシルの秘密を知っていて、それが秘密にされていることには納得できる理由があることをも知っている。ユグドラシルと戦い、秘密を暴露するような真似を、彼は容認できない。葛葉紘汰をそのような無謀で無益な戦いに巻き込みたくないと彼は考えている。そしてさらに(3)彼は葛葉紘汰が行方不明の角居裕也(崎本大海)の末路を知るに至ることを恐れている。ヘルヘイムの森で葛葉紘汰が最初に退治したインベスの前身が大親友の角居裕也だったという衝撃の事実を、何としても葛葉紘汰に知られてはならないと彼は考えている。葛葉紘汰が真相に深く傷付き、再起不能になるのを彼は恐れているのだ。もちろん彼は自身が既にユグドラシル側の手先としても動いてきたという不都合な事実をも葛葉紘汰に知られたくはないに相違ないが、それ以上に彼は葛葉紘汰を守りたいと思っているようだ。
葛葉紘汰と駆紋戒斗のユグドラシル潜入を阻止すべく、呉島光実は直ぐにユグドラシルの巨大な城「ユグドラシル・タワー」へ赴いて、同社の幹部である兄の呉島貴虎(久保田悠来)に報告した。葛葉紘汰を守るために葛葉紘汰を裏切るという凄まじい矛盾がある。
呉島貴虎は先ずはシド(浪岡一喜)に警備を命じたが、思いのほか戦闘が激化していた中、ついには自らアーマードライダー斬月として出陣し、アーマードライダー鎧武=葛葉紘汰に対峙した。
他方、ユグドラシルへの潜入には辛うじて成功したとはいえアーマードライダーシグルド=シドによって倒されようとしていた駆紋戒斗の前には「プロフェッサー凌馬」こと戦極凌馬(青木玄徳)が現れた。
戦極凌馬は今までは専ら、戦極ドライバーの性能を想像以上に引き出してみせる葛葉紘汰の可能性を高く評価してきたが、今回の戦闘を観察していた中で漸く、「強さへのこだわり」を持ち続ける駆紋戒斗の闘志にも注目するに至った。戦極凌馬は駆紋戒斗との提携、共闘を考え始めたのかもしれない。
他方、呉島貴虎はヘルヘイムの森の小川で葛葉紘汰と再び打つかり合い、語り合った中で、葛葉紘汰を信頼しても良い人物であると見抜いたのだろうか。弟にヘルヘイムの森の真実を全て教えたのと同じように、弟の大切な友であるらしい葛葉紘汰にもヘルヘイムの森の真実を教えることを決意したようだ。
葛葉紘汰とユグドラシルとの関係はどうなるのか?そして葛葉紘汰と駆紋戒斗との関係はどうなるのか?駆紋戒斗とユグドラシルとの関係はどうなるのか?その行方は次週にも少しは見えてくるのだろうか。
注目に値するのは、ユグドラシルの内部が予想以上に敵対関係に満ちているらしいことだろう。呉島貴虎と戦極凌馬との間には意見の相違があり、静かな対立があることは予て明らかだったが、配下のシドが大した考えもなく何でも引き受ける傭兵であるとしか見えないのに比して、湊耀子(佃井皆美)には何か密かな企みがあるらしいのは意外だった。呉島貴虎の配下であると同時に戦極凌馬の秘書でもある点だけ見ても湊耀子の立場は微妙だが、戦極凌馬の見るところ、湊耀子が今まで一度も「本気でゲネシスドライバーの力を発揮していない」のは「手の内を見せたくない」からであると推察されるのだ。ユグドラシルにおいて戦極凌馬の周囲にいる人々は、彼自身も含めて皆が「腹に一物」を抱えている。「楽しい職場だよね」と彼は笑っていた。
実際、既にDJサガラは完全に独自の動きを見せ始めている。先月二十六日放送の第十五話では彼は、ユグドラシル内の独房に閉じ込められていた葛葉紘汰に新たな武器を与え、脱走と潜入のための鍵までも提供した。そして今回もDJサガラは、葛葉紘汰に「新開発のチューリップ・ロックビークル」を贈った。DJサガラを「ユグドラシルの手先」と見て警戒していた駆紋戒斗に対しては、「俺はずっと見守っているだけだ。これまでも、これからも」と応じて笑った。
第十一話で完結したビートライダーズ編に続くユグドラシル編は今週の第十九話で完結し、来週の第二十話からはヘルヘイム編に突入する模様。