仮面ライダー鎧武第三十話/キカイダー編

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第三十話「赤と青のキカイダー」。
今回は第三十話ではあるが、前回の第二十九話から続く話ではないし、次回の第三十一話へ続く話でもない。その意味で番外編。今月二十四日以降に劇場で公開される映画「キカイダー REBOOT」(http://www.kikaider.jp/)の宣伝を兼ねた「仮面ライダー鎧武」とのコラボレイションに他ならない。
前回の第二十九話の時点から遡ること二週間前の話。葛葉紘汰(佐野岳)は、高司舞(志田友美)と一緒に街を歩いていたとき、一人の奇妙な人物を見た。姿形は人間だが、実は金属製のロボット。その名をジロー(入江甚儀)と云う。少年時代に彼が街で拾って家で飼おうとして果たせなかった子犬に、彼が与えた名もジローだったこともあってか、このジローを放ってはおけないと感じてしまい、暫くは家で預かりたいと考えるに至った。唯一人の肉親である姉の葛葉晶(泉里香)も戸惑いながらも何か特別な縁を感じたようで、人間のようで人間ではないジローを受け容れた。
同じ頃、ユグドラシルの研究所内では「プロフェッサー凌馬」こと戦極凌馬(青木玄徳)も、謎の組織「DARK」から委託されて謎のアンドロイド「ハカイダー」の試験に従事していて、その最後の試験にあたって湊耀子(佃井皆美)に協力を求めていた。
こうして図らずも葛葉紘汰と戦極凌馬の両陣営がそれぞれキカイダーハカイダーと組んで戦うことになったわけだが、今回の話の魅力の一つは、葛葉紘汰と姉の葛葉晶の平和な日常生活が存分に描かれた点にある。物語は葛葉紘汰の苦しい死闘を主に描いているが、実は意外にも葛葉紘汰には平和で平穏で平凡な休息の日々もないわけではないことを、今回の話で確認することができたのだ。
ところで、この話が物語の時間軸上に位置する「二週間前」というのは一体どの時点にあたるのだろうか。前回までの数話における時間の推移を丁寧に分析すれば判明するのかどうかは定かではないが、今回の第三十話だけ見ても、前後関係を推測させ得る要素が二三あったと云えるかもしれない。
一つは葛葉家の経済状態。葛葉晶の収入が急に減少し、葛葉家の生活が苦しくなったことは第二十八話において明らかにされた。夕食に、コロッケ一個を二人で食べなければならない状態にまで落ち込んでいたのだ。そのことで危機感を抱いた葛葉紘汰は何とかアルバイト先を探さなければならないと決意し、結局、行き付けのフルーツパフェの店「ドルーパーズ」に、店長の阪東清治郎(弓削智久)の厚意で雇用されることになったわけで、ゆえにそれ以後は葛葉家の生活も復興したのではないかと想像される。しかるに今回の話では、葛葉家に居候することになったジローが肉ジャガをはじめ夕食を拵えていたが、量も品数も充実していて、生活の余裕、否、むしろ豊かさをさえも感じさせる様子だった。そうである以上、この「二週間前」というのは、葛葉家の生活が苦しくなるよりも前か、さもなくば余裕を取り戻した後か、何れかであると考えられる。
もう一つは呉島光実(高杉真宙)の人間性。今回の話に出てきた彼は、表情も言動も冷たい雰囲気を出していたとはいえ、葛葉紘汰とは普通に接していたようであるし、未だ殺人鬼にはなっていない様子だった。
反面、もう一つ注目しておきたいのはシド(浪岡一喜)の不在。ユグドラシルの研究所で戦極凌馬の実験に立ち会っていたのは秘書の湊耀子のほかはユグドラシルの研究員集団のみであって、シドの姿はなかった。とはいえシドが戦極凌馬を裏切ったのは「二週間前」よりも後のこと(というよりは多分、「二週間前」の日から見て二週間近く後のこと)であるに相違ないから、シドの不在によって時間軸上の位置を推し量ることはできない。このことが物語るのは、シドがもともと戦極凌馬や湊耀子とは距離を置いていたということではないだろうか。
興味深かった点や面白かったところは色々あったが、一つ注目せざるを得ないのは、ザック(松田岳)が初めて敗北したことだろう。普段、街の平和を守るためアーマードライダーナックルに変身してインベス退治に精出しているが、その活動が途絶えることなく続行しているということは彼が今まで一度も負けていないことを物語る。そんな彼が今回は初めて敗北を味わったわけだが、流石に今回ばかりは無理もない。なにしろ相手がハカイダーと化して破壊の衝動に憑りつかれた戦極凌馬だったからだ。
葛葉紘汰に「REBOOT」ボタンを押させてキカイダーの姿に戻ったジローは、驚異の力でキカイダーとインベスを退治したあと、ギターを奏でながら去った。別れを惜しんで呼び止めた葛葉紘汰に対してジローは「REBOOT」(再起動)前のことを何も記憶していないかのように振る舞ったが、どうやらこれは嘘だったらしい。なぜなら葛葉晶が弟とジローと三人で見に行こうとしていた映画の題名が「REBOOT」で、チラシに書かれたその宣伝文句が「嘘をついたら」だったからだ。
葛葉紘汰を演じる佐野岳が驚異の運動能力の持主であるのは「仮面ライダー鎧武」の視聴者であれば誰もが知るところで、今回の話でも変身前の人間の身体のまま見事な戦闘を繰り広げていたが、ジローを演じる入江甚儀の身体能力にも圧倒された。かつて入江甚儀は頼りない男子を演じるのが上手かったが、いつの間にかアクション俳優のようになっていた。