ブラックプレジデント第七話

関西テレビブラック・プレジデント」第七話。
ブラック企業のブラック経営者…と云われている「トレスフィールズインターナショナル」の筆頭株主であり社長でもある三田村幸雄(沢村一樹)に唐突に近寄ってきた謎の城東大学経営学部四年の女子、高岡まゆみ(足立梨花)。その言動から見て、この女が三田村幸雄の財産と影響力を狙って近付いてきたのではないかと疑うことには無理がない。もっとも、実際にはそういうわけではなく、真の狙いは憎しみにあり、さらには実際に三田村幸雄に親しく接したことで恋心をも抱くに至ったわけではあるが、何れにしても、経営学上の事例研究のため社長に話を聴きたいという口実が全く嘘であるのはどこからどう見ても明白だったろう。そんなことにも気付かなかった三田村幸雄は、恋に慣れている振りをしてはいるが、恋に飢えていたということだろう。
城東大学経営学部でブラック企業を研究しようとしているブラック研究室のブラック講師、秋山杏子(黒木メイサ)は、高岡まゆみの陰謀に終には気付いたが、それは直接の証拠をインターネット上に見出したからだった。証拠を掴んでおかなければ本人に詰問しようもないのは確かだが、秋山杏子の場合、怪しさに気付いて証拠を探したのではなく、証拠を発見して初めて疑ったに過ぎない。ブラック企業を批判しようとして却って自身の研究室をブラック化し、自らブラック講師と化したのは、こうした鈍さのゆえであるのかもしれない…とさえも思える。
映画サークル「アルゴノーツ」の、副部長である監督である前川健太(高田翔)と女優をつとめる岡島百合(門脇麦)との関係について、劇中には奇妙な捻じれが生じている。まるで前川健太が駄目な男子だから岡島百合が呆れているかのように描かれてはいるし、確かに前川健太には女子を喜ばせる構えが全くなさそうではあるが、今回のデートに関する限り、誘ったのは岡島百合の側であって前川健太の側ではないという事実を見落としてはならない。
前川健太は岡島百合に想いを懸けているのに対して岡島百合は三田村幸雄に出会って以降は前川健太への興味を失くしている。しかし岡島百合がああ見えて恋を欲求しているのに対して前川健太はあの顔で意外にも恋に関心を持っている様子がない。しかも前川健太は、岡島百合を映画に誘っても応じてくれるとも思っていなかったに相違ない。なにしろ岡島百合から映画に一緒に行きたいと声をかけられたとき彼はそれを予想外の出来事であるかのように受け止めて驚いていたからだ。彼の最も親しい友である部長の工藤亮介(永瀬匡)がこの予想外の出来事に驚きながらも喜んでいた様子からも、前川健太が岡島百合との関係を既に諦めていたのだろうことは容易に見て取れよう。
駄目な男子であるかのように描かれている前川健太は実際には気紛れな悪女に振り回されているだけの気の毒な被害者に他ならない。