ブラックプレジデント第十一話=最終回

関西テレビブラック・プレジデント」第十一話=最終回。
ブラック企業のブラック経営者…と云われている「トレスフィールズインターナショナル」の筆頭株主であり社長でもある三田村幸雄(沢村一樹)の突然の大胆な決断。米国の企業と提携し、ニューヨークに合弁会社を新設するにあたり、渡米してその新社長に就任することを決意したのだ。新会社が軌道に乗るまでの間、少なくとも五年間はニューヨークで働くことになる見込みであり、当然その間は日本を留守にせざるを得ない。この大胆な決断に対しては、彼の一番の腹心である専務の明智志郎(永井大)が社長秘書の冴島真理(国仲涼子)等とともに強硬に反抗した。明智の名に相応しく遂に反旗を翻すか…と一瞬は思わせたが、結局、明智志郎はどこまでも忠実な部下であり続けた。
問題はその先にあった。三田村幸雄はニューヨークに赴くに際し、明智志郎を社長代行に任命し、日本におけるトレスフィールズの経営を任せることにした。明智志郎はそれを引き受ける条件として、己が社長代行を務める間は己が信じる通りに会社を改善したいと宣言し、三田村幸雄に承諾させた。そして一年後。わずか一年間で新会社の経営を軌道に乗せた三田村幸雄は、自身の創業したトレスフィールズに一年振りに出社して、かつては「ブラック企業」と疑われていた会社が見事に「ホワイト企業」に変貌を遂げているのを目の当たりにした。しかるにそれを窮屈にも感じて、早くも、徐々に元の路線に戻してゆくことを考えていたのだ。ここにおいて、やはり三田村幸雄は「ブラック野郎」ではないのか?と云わざるを得なくなる。環境や組織を己に都合よい格好へ変革したがる精神は「ブラック」の基本であると思われるからだ。
三田村幸雄は自ら率先して働く人物であり、仕事のためには快楽も恋も私生活も全て犠牲にしたような禁欲の人生を今まで送ってきていて、その点では今一つ「ブラック」ではないが、反面、己の都合のために周囲を勝手に道具にして振り回してしまう点では、やはり「ブラック」であると思われる。このテレヴィドラマに欠点があるとすれば、現今の社会を考えるときのキーワードとも云える「ブラック企業」という語を徒に不明瞭に用い続けたことにあるのかもしれない。三田村幸雄の魅力ある人物像を通じて視聴者に、「ブラック企業」も決して悪くはないのかも?と思わせてしまうようでは話にもならない。罪深いことだ。
ともあれ、面白かったのは最終回に至って遂に、城東大学映画サークル「アルゴノーツ」の、副部長であり監督である前川健太(高田翔)が、三田村幸雄の言に耳を傾けるようになったこと。しかるにこれは決して無理な展開ではない。なぜなら三田村幸雄に対して最も反発してきた前川健太こそは最も強烈に三田村幸雄の存在を意識し続けてきた人物であるとも云えるからだ。前川健太に変化を促した一番の要因が元恋人の岡島百合(門脇麦)からの叱責だったのは明らかだが、同時に、彼の一番の理解者であり親友である部長の工藤亮介(永瀬匡)が既に三田村幸雄の言に耳を傾け始めていたことも大きく作用したろう。居酒屋で三田村幸雄と対面した彼等二人が大いに盛り上がって議論をしていた様子を見れば、両名が相携えるようにして大学四年間を歩んできたのだろうことが想像された。
ところで、城東大学経営学部でブラック企業を研究しているブラック研究室のブラック講師、秋山杏子(黒木メイサ)に散々こき使われてきた助手の増山圭介(澤部佑)は結局、学問を諦めて就職することに決めたが、就職先はアパレル会社。秋山杏子の命令を受けてトレスフィールズの店舗で働いた経験から、自身が接客業に向いているのかもしれないと感じたらしい。明らかに向いていないように見えていたのに、意外な感想だ。就職先がトレスフィールズの店であるのかどうかは劇中で明かされなかったのが物足りない。