仮面ライダードライブ第十話

平成「仮面ライダー」第十六作「仮面ライダードライブ」。
第十話「ベルトの過去になにがあったのか」。
今回の話には二つの真剣勝負があった。
前半には、警視庁特状課巡査、泊進ノ介(竹内涼真)=仮面ライダードライブと、ロイミュードの死神、チェイス上遠野太洸)との戦闘があった。真向から勝負を挑んでくるチェイスの真摯な姿勢に泊進ノ介は感心し、軽口を叩いて相手の真摯な姿勢を茶化してみせる泊進ノ介の軽さをチェイスは嫌った。この対比は、仮面ライダーロイミュードの対立を単なる善と悪の対立として捉えることを難しくするかもしれない。そこが面白い。両者の戦闘は互角の勝負ではあったが、何時の間にか強くなっていた泊進ノ介の力にチェイスが驚いたのは、二つ目の戦闘における似た展開を予告していたろう。
この一つ目の戦闘は、途中にロイミュードの首領、ハート(蕨野友也)が出現したのを見てベルトさん(声:クリス・ペプラー)が怯えて逃げた結果、中断した。逃げ帰ったあと、怯えた理由をベルトさんが明かしたことで、泊進ノ介はロイミュードとベルトさんの過去を知るに至った。ゆえにこの中断は実に重要な意味を持った。
後半に来た二つ目の戦闘は、泊進ノ介=ドライブとハートとの死闘に他ならない。
この死闘を前段と後段に分けて見ることができる。前段において、ドライブは数々の武器を用いたのに対し、ハートは武器の類を一切用いなかったが、それでもハートは強かった。
ハートは、かつてベルトさんの前身とも云える人間、科学者クリム・スタインベルトクリス・ペプラー)を殺害したあと、ベルトさんによって生み出されたドライブの前身、プロトドライブをも打倒して殺害した。しかるにベルトさんの見るところ、当時のハートよりも今のハートは一段と強くなっていた。泊進ノ介=ドライブの強化にチェイスが驚いたように、ハートの強化にベルトさんは驚いた。
己の肉体の力のみによって奮戦し続けたハートは、その名の物語る通り、心で戦っていた。心が暴走するとき肉体の暴走を自力で止めることはできなくなる。それを弁えているからこそハートは、信頼できる盟友チェイスに、己が暴走して始末に負えなくなった暁には容赦なく処刑して欲しいと約束していたのだろう。
そのことに気付いたとき、泊進ノ介は心で戦うことにした。「こいつは、自分が燃え尽きる覚悟で俺を倒しに来てるんだ。だったら付き合ってやる」。生命を賭して、ハートの心臓そのものに狙いを定めた。たとえ己の生命が敵とともに燃え尽きようとも、ベルトさんが生きていれば、また誰か別の者が新たなドライブになって戦い続けることができる!というのは特別攻撃の精神だろう。ベルトさんは悲鳴を上げたが、ハートは感服した。「恐ろしい男を選んだな!クリム。この人間は大した奴だ。良いだろう。どちらの心が強いか、勝負と行こうか」。
この瞬間、泊進ノ介とハートは戦うことにおいて解り合えたと云うも過言ではない。
死闘の結末は次週まで待つしかない。
ところで、ベルトさんの前身がクリム・スタインベルトという名の人間であり、科学者であることは、視聴者に対しては既に十月十二日放送の第二話で明かされていたが、泊進ノ介は知らされていなかった。今回ようやく泊進ノ介も知ったわけだが、視聴者にとっても追加の真相が少なくなかった。
列挙する。(1)クリム・スタインベルトにはバンダイならぬ蛮野博士という友がいたということ。(2)蛮野博士が増殖強化型アンドロイドとしてロイミュードを開発したということ。(3)この研究が頓挫していたということ。(4)クリム・スタインベルトは蛮野博士に懇願され、友情に負けて、己の開発していた超駆動機関「コア・ドライビア」をロイミュードのために提供したということ。(5)コア・ドライビアは現在、ドライブ陣営のトライドロンやシフトカーの動力源として活用されているが、同じものがロイミュードの動力源でもあるということ。(6)コア・ドライビアの使用は、危険な重加速現象を伴うということ。(7)十五年前、ロイミュード001、002、003の三体が反逆し、蛮野博士を殺害したということ。(8)ハート率いる三体の反逆者は続いてクリム・スタインベルトにも迫ったが、危険を予知していたクリム・スタインベルトは己の知能、意識の全てをベルトへダウンロードする準備を済ませていたので、人間として生涯を終えたあとにもベルトとして現存できているということ。(9)半年前の「グローバル・フリーズ」の直前、ベルトさんはドライブのプロトタイプであるプロトドライブを完成させ、ロイミュードを撃退し始めていたということ。(10)ロイミュード根絶のためのプロトドライブの戦いの中で、ハートも一度は倒されていたらしいということ。しかるに(11)グローバル・フリーズのあと、復活したハートは進化体となってさらに強くなり、プロトドライブを打倒して殺害していたということ。
そして今、「仮面ライダーは二度死ぬ」と宣言したハートは、(12)ドライブ=泊進ノ介を殺害し、「クリム」=ベルトさんをも再び絶命させる意欲に燃えているということ。
面白いのは、肉体が滅亡させられてもなお心が生き続けるという思想がこの物語に充満している点ではないだろうか。クリム・スタインベルトは死んだが、その心は「ベルトさん」として生き続けている。ハートは、強力な心を持つ強力な肉体を一度は倒されても、心の強さに因るものか、復活してさらに強くなっていた。そして「暗黒の聖夜」という恐ろしい小説を書いていた美波護郎(あご勇)は三か月前に病死していたが、その構想は彼の容姿とともにボルトのロイミュードに複写されて生き延び、作中の大停電事件は現実の大停電事件として実現されようとしていた。しかもボルトのロイミュードは既にドライブによって倒されたが、復活して、改めて計画を実行しようとしているらしいのだ。