渡る世間は鬼ばかり二〇一五

橋田寿賀子ドラマ「橋田壽賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
橋田寿賀子作。
二週連続二時間特別篇の後篇。
先週放送の前篇を見逃したが、物語の全てを台詞によって説明し尽くしてくれるこの番組の性格のおかげで大体わかった。
この物語の中心人物である岡倉大吉をもともと演じていた藤岡琢也が重病により降板した平成十八年(二〇〇六)以降、宇津井健が二代目を継いでいたが、昨年三月に逝去したという事実を受けて、物語の中でも遂に岡倉大吉が逝去したことになったらしい。それで今回、岡倉大吉の遺産を五人姉妹がどのように相続するのか?相続する財産をどのように活用したいと考えるのか?という問題を取り上げていた。
驚いたことに、岡倉大吉の遺産は主に料理店「おかくら」の店舗を兼ねた家屋と土地だけだった模様。今まで物語の中で彼は、一族に何か事件が生じる度に、多額の金銭による支援を実行してきた。ゆえに、何か途轍もなく莫大な財産を所有しているのではないかと見られてきた。しかるに、意外にもそうでもなかったようなのだ。
そこで、店舗を兼ねた家屋を売却して一億円を手にした上で、それを五人姉妹で五等分しようではないか!という話になったところで、料理店「おかくら」が消滅することへの賛否あり、波乱ある中、五人姉妹の中には相続によって得られるはずの約二千万円を使って自身の家族の問題を一挙に解決してしまおう!という類の思惑も生じて来ていたが、結局、亡き父が一代で築き上げた高級料理店「おかくら」を存続させる道を選び、店を株式会社化して株の五等分を五人姉妹で相続して持つことに落着した。
さらに凄いのは、相続して得る財産によって事業を拡大しようと目論んでいた岡倉文子(中田喜子)がそれを断念したのは問題ないが、新事業を起ち上げようとしていた大原葉子(野村真美)や小島五月(泉ピン子)は普通に借金をして何とか進めることに決したのだ。野田弥生(長山藍子)に至っては、他人の好意に甘えることで問題を解決してしまった。遺産なんか要らなかったのだ!と皆で喜んでいたが、事業の失敗を想定しなくとも大丈夫であるのか。もし橋田寿賀子が邪悪な脚本家だったなら、大原家と小島家それぞれの事業の失敗を軸に、次の展開を構想することになっていたろう。
料理店「おかくら」を十七歳の娘に継がせてしまった本間長子(藤田朋子)の決断も凄いが、ここの場合、岡倉大吉の下で修業してきた若い料理人、森山壮太(長谷川純[ジャニーズJr.])の腕前と忠誠心によって店の質を維持できると期待できるのだろう。彼が決して「おかくら」を裏切らないだろうことは、今まで「渡る世間は鬼ばかり」を視聴してきた者であれば知っている。だが、常識で考えるなら、どこの高級料理店に移籍しても充分に活躍できる腕の持ち主であると高く評価される程の料理人が、独立することも移籍することもなく、己よりも未熟な店主の下で一使用人の身分に甘んじ続けるというのは信じ難い。
この物語を視聴してきた者であれば、岡倉大吉に劣らず青山タキ(野村昭子)もまた強大な財力で様々な問題を解決し続けてきたことを知っている。ゆえに今回も、その財力によって「おかくら」を買い取り、自ら新たな経営者となって森山壮太と本間日向子(大谷玲凪)に店を預けるという形を採るのではないかと期待していたが、流石にそうはならなかった。誠に残念。
気になったのは、大原葉子と大原透(徳重聡)との間の、仕事と育児の両立の問題が、二年前に既に解決したはずであるにもかかわらず、あたかも未だ一度も解決された例がなかったかのように普通に再燃していたこと。しかもそれが遺産相続の問題に絡んでいた。今回は、その解決も都合よい話だったが、そもそも再燃していたこと自体も都合よい話だったと云わざるを得ない。
野田弥生の荒唐無稽な家族の姿については、もはや常識では理解し得ない。ただ、孫の野田勇気(渡邉奏人)が同年代の男児をやたら家に連れ込みたがっていることこそが野田家の奇妙な現状を生んでいるらしいことは今や明らかではないだろうか。そういえば、そもそも野田家とは血縁のない野田佐枝(馬渕英俚可)とその連れ子の野田良武(吉田理恩)を家に置いているのも、野田勇気が野田良武を兄として慕って、離さなかったからではなかったか。そして今回は、野田勇気とその大勢の友に楽しく勉強させるため、優秀な家庭教師(金子貴俊)をも家族同然に扱い始めたのだ。野田家の奇妙な家族像の真相は、実は橋田寿賀子がこの「ホームドラマ」の中に仕込んだ微かな「BL」要素ではないのか?と改めて疑わざるを得ない。