富豪刑事・H2君といた日々

今宵は新ドラマが四本あった。九時からの「富豪刑事」と十時からの「H2」を見た。八時からの名取裕子主演テレビ朝日系「京都地検の女」は途中から少し見たが、十時からの倉本聡脚本フジテレビ系「優しい時間」だけは全く見なかった。見たくないわけではなかったが、見る余裕がなかった。「京都地検の女」は途中からしか見なかったのに充分に面白かったと思う。だが、今宵の最大の収穫は、やはり「富豪刑事」だったと云わなければならない。
今や木曜九時はテレビ朝日「木曜ドラマ」の時間であると云ってよいのかもしれない。二〇〇三年の仲間由紀恵主演「トリック」、二〇〇四年の上戸彩主演「エースをねらえ!」、米倉涼子主演「松本清張 黒皮の手帖」に続き、二〇〇五年の新春には深田恭子主演「富豪刑事」が登場した。
テレビ朝日系ドラマ「富豪刑事」。筒井康隆原作。蒔田光治脚本。深田恭子主演。第一話。十分延長の特別拡大版。
早くも今期最高傑作になりそうな予感を抱かせた。最初から最後まで寸分の隙もなく笑えたと云うも過言ではない程に面白かった。
主演の深田恭子が役に合っていて面白い。昨年のNHK「農家の嫁になりたい」も深田恭子もよかったが、今回のはさらによい。だが、それ以上に凄まじいのは共演者の顔触れだ。富豪刑事の勤務する警察署の上司たちの役には山下真司西岡徳馬が配され、同僚刑事の役には升毅寺島進相島一之鈴木一真載寧龍二が配されて、それぞれ怪演を繰り広げてくれる。だが、さらに輪をかけて凄いのは富豪刑事の実家の人々だ。富豪刑事の祖父の大富豪の役には夏八木勲。この祖父の秘書役には市毛良枝。特に夏八木勲の演じる祖父が、威厳と迫力に満ちていながらも壮大に過ぎて逆に無茶苦茶で、その落差で笑わせる。この祖父のライヴァルの役で原作者の筒井康隆も登場。第一話の客演には甲本雅裕温水洋一が登場した。
なお、この番組の制作を手がけるのは東宝だから、恐らく中心人物は蒔田光治なのだろう。「金田一少年の事件簿」、「ケイゾク」、「トリック」をはじめ数多くの傑作を手がけた人だが、それらの大半は堤幸彦演出の作品だった。今回の「富豪刑事」はそうではないが、それでも基本的には「トリック」派の制作であると見てよいのだろう。作風は確かに「トリック」風だった。敢えて思うに、もし堤幸彦がこれの演出を手がけていたら、「トリック」以上の傑作になり得たのではないだろうか。そのように考えてしまい、少しだけ惜しく思う。
他方、十時からのTBSの新番組が堤幸彦演出のドラマだったのだ。
TBS系ドラマ「H2・君といた日々」。あだち充原作。堤幸彦演出。山田孝之主演。第一話。十分延長の特別拡大版。
冒頭が微妙に退屈にも思えて、見ていて少し不安にもなったが、次第に盛り上がり、後半からは快調に進み始めた。全体としては面白かったと思う。
一番の収穫は、意外にも、石垣佑磨が活き活きしていたことだろうか。彼を役者として活かすことができたのはやはり堤幸彦の力だろうと推察される。同じことが石原さとみについても云える。昨年の「ウォーターボーイズ2」のときよりも断然よいと思う。アイドル俳優の隠れた魅力を引き出してみせるのは堤幸彦の得意技で、実際、あの仲間由紀恵堤幸彦の「トリック」に出演したことで新たな魅力を開花させたのだ。山田孝之田中幸太郎の新境地開拓にも期待してみたくなる。