Mの悲劇

TBS日曜劇場「Mの悲劇」。石井康晴演出。橋本裕志脚本。稲垣吾郎主演。第四話。どう考えてもこれは日曜の夜九時という平和な時間帯に放送できるような番組ではないと思う…ということを繰り返し書かざるを得ない。
石橋を叩いて渡る用心深い小心者の安藤衛(稲垣吾郎)に対する正体不明のストーカー相原美沙(長谷川京子)の恨みの理由は今回また新たに追加された。でも、それでもなお美沙の恨みが単なる八つ当たりでしかない点は変わらない。とはいえ美沙の恨みが容易に納得できるものだったならそもそもこの物語の恐ろしさの過半が損なわれるのかもしれない。一人の小心者を一気に破滅させ得る程の犯罪的な行為の連続がどうにも理不尽な狂気の怨念に起因しているという点にこそ、この物語の恐ろしさがあるからだ。そして実のところ常識では理解できない妄想の怨念を抱き続ける狂人というのは確かに身近に実在するものなのだ。
他方、下柳晃一(成宮寛貴)の安藤衛への恨みが社会人・職業人にとって普通に理解できる範囲のものである点は前回の話で明らかになっていた。今回の話で重要なのは、下柳晃一の情念を久保明佐々木蔵之介)も共有し得ることを安藤衛が悟ったところにある。下柳晃一の感情は「会議室」と「現場」との距離に起因するものである以上、現場出身の久保明にとってもそれが身近な感情であるのはもとより明白だが、安藤衛はそのことに全く気付いていなかったのだ。その冷酷な無関心こそが恨みの対象に他ならない。