仮面ライダー響鬼

テレビ朝日系ドラマ「仮面ライダー響鬼」。
二之巻「咆える蜘蛛」。
今週も凄かった。変化に富んで密度の高いアクション場面の連続には手に汗握る興奮があった。例えば、十四歳の少年、安達明日夢栩原楽人)が、屋久島の森の中でヒビキ(細川茂樹)に再会できた喜びの余り、勢いよく抱き着いて、その弾みで二人ともに渓谷を転がり落ちてしまったとき、ヒビキの驚異的な腕力で樹木に掴まり這い上がって何とか助かった場面。まるで大正製薬リポビタンCMのように力強い演技だったが、見落とせないのは、「少年」明日夢もまた必死に木の枝を掴み、ヒビキに力を貸していたことだ。バンダイCMにおける細川茂樹=ヒビキの「今欲しいんだよね、君の力が」という呼び掛けに、確かに明日夢は応えつつある。
だが、やはり今朝の戦闘における最大の見どころは太鼓による「清め」の場にあったろう。森の廃屋に潜んでいた巨大な蜘蛛の化物が二人の前に出現し、ヒビキを滝壷に沈めたあと明日夢に襲い掛かろうとした瞬間、水面から跳び上がったヒビキは蜘蛛の背に乗り、この邪悪な妖怪の背を和太鼓に見たてて二本のバチで叩き、周囲に重厚に響き渡る「清めの音」によって退治したのだ。
凄まじい闘いを目の当たりにして興奮し呆然としていた明日夢に向ってヒビキは「鍛えてるんです」と云った。決め台詞だ。
だが、見どころは戦闘場面ばかりではなかった。この戦闘のあった日の前日にもヒビキは屋久島の森の中で明日夢と彼の従姉妹の千寿(大西麻恵)を救出したが(先週放送「一之巻」から今週の冒頭にかけて)、千寿は気絶したままだったので、ヒビキは二人を家まで送り届けるため千寿の自家用車を千寿の代わりに運転しなければならなくなってしまった。それに気付いた瞬間、ヒビキは微妙な表情だった。実際、なかなか上手く運転できなかった。ヒビキは実は「ペイパードライヴァー」だったらしい。車は動いては停まるのを繰り返し、牛歩で進んでゆくしかなかった。運転の苦手な「仮面ライダー響鬼。傑作な場面だ。ヒビキは普段は東京で生活しているわけだから電車を愛用しているのかもしれない。面白いヒーローだ。
明日夢の祖父母の家で歓待を受けたヒビキ。楽しい夕食。会話が弾んだのは一つには東京における安達家の住所とヒビキの住所が直ぐ近くだったからだ。明日夢の安達家は葛飾柴又の五丁目。ヒビキは六丁目。
翌日の早朝、次の仕事のため去り行こうとするヒビキは、追いかけてきた明日夢に告げた。「自分を信じること。それが、自分が自分らしくあるための、第一歩なんじゃないかな?」。
ここで変な「歌」が登場した。「出会いがあれば、別れもあるさ、さ・さ・さ・さ、ささささささささ、さようなら」。ちなみに前回のは「イルカがいるか、沢山いるぞ、ぞ・そ・ぞ・そ、そそそそそそそそ、蘇我入鹿」だったろうか。前回のを「イルカの歌」、今回のを「別れの歌」と仮に名付けておこう。
辛うじてヒビキの行き先を聞いて憶えていた明日夢は、その日の午前中、母の郁子(水木薫)を急かして自家用車でヒビキ探しに出発した。郁子も意外に乗り気だった。郁子の亡き夫に、ヒビキはよく似ていたのだ。換言するなら明日夢の亡き父によく似ているということでもあるのだ。
出発のとき、急かす明日夢に郁子は「ロジャー!」と応じた。これは特捜戦隊デカレンジャーに因んでいようか。
なお、先週放送の一之巻「響く鬼」の冒頭を彩ったミュージカル風の演出は今回は最小限度に抑えられていた。強いて云えば、明日夢とヒビキの別れのあとの、明日夢が郁子の車でヒビキ探しに出発する場面にはそれが少し見られた。ここから想像するに、一つの事件の話が終わり次の話が始まるとき、主にその冒頭にミュージカル風の表現が取られるのではないだろうか。そうであれば次週また舞台を東京葛飾柴又に戻したときにミュージカルがあるのかもしれない。そう考えて次回に期待してみたい。