ごくせん第五話

日本テレビ系ドラマ「ごくせん」第五話。仲間由紀恵主演。
矢吹隼人(赤西仁)率いる黒銀学院三年D組の生徒たち全員が盛り上がっているとき一人だけ冷静に無表情のまま席に座していて動かない小田切竜(亀梨和也)。…という光景は毎度のことだが、見ていて落ち着く。あの無表情は彼の鋭い顔立ちによく似合っている。
また、今宵、番組の末尾には原作「ごくせん」最新刊(第十巻)の視聴者プレゼントについて告知があったが、ここでは小田切竜がアイドル風のサワヤカな笑顔だった。矢吹隼人は「こちらの宛先まで御応募くだ…ぱい!」と呼びかけた。今回も彼の「くだぱい」を聞けて喜ばしい。二人の背後に勢揃いしていた三年D組の生徒たちのうち土屋光(速水もこみち)は深刻な表情で原作漫画本を読んでいたのに対し、日向浩介(小出恵介)は大爆笑しながら夢中に読んでいて、やはり顔芸の名手だった。
さて、今回は二月十四日「聖ワレンティヌスの日」直前の放送日であることに因み、チョコレイト贈答をめぐる物語。三年D組の中で最も繊細で小心な武田啓太(小池徹平)に焦点を中て、恋における強さと優しさの意味と必要性を描いた。同時に、ヤンクミ(仲間由紀恵)の恋にも重要な進展があったと見てもよいのだろうか。武田啓太の恋の相手が黒銀学院に隣接する桃ヶ丘女学園の生徒、水島真希(若槻千夏)だった縁で、ヤンクミの予てからの片想いの相手、桃ヶ丘女学園の教師の九條拓真(谷原章介)が、ヤンクミ流の事件解決の一部始終を目の当たりにしたことで、ヤンクミの魅力を知ったのだ。
他方、九條拓真をめぐるヤンクミの恋敵だったはずの白鳥ひとみ(乙葉)にも新展開があった。街の不良に絡まれたところを朝倉てつ(金子賢)に助けられたことで、一目惚れしてしまったのだ。もちろん、彼が実は任侠集団「大江戸一家」の若頭代理補佐であることを白鳥ひとみは未だ知らない。朝倉てつは昔から大江戸一家三代目の「お嬢」=四代目のヤンクミに片想い一筋だから、実のところここでも白鳥ひとみにとってヤンクミは恋敵になってしまうわけだが、そのことを未だ三人とも知らない。ヤンクミに至っては、朝倉てつが自分に惚れていること自体をそもそも知らない。恋愛対象として見ること自体ないのだ。この三角関係の行方にも注目してゆこう。
ともかくもこうして見ると、このドラマにおいて愛は強さによって表現され、人は強さに心惹かれる。だが、強さは決して物理的・身体的な強さに限られない。それが今宵の第五話の主題だったのは云うまでもない。身体的には全く強くない武田啓太は、水島真希を弄ぼうとしていた恋敵、大学ボクシング選手の奥寺(高杉瑞穂)に散々打ちのめされながらも立ち向かっていった。彼のその行為は、ヤンクミの愛の説教に触発された面もあるにせよ、何よりも彼自身の愛に起因していたはずだ。まさしくヤンクミの祖父、黒田龍一郎(宇津井健)が云ったように、優しさが強さに変換されたのだ。
なお、三年D組の動きに警戒感を抱いた教頭の猿渡五郎(生瀬勝久)の詰問に対するヤンクミの回答が名言だったかもしれない。「恋のない人生なんて、高倉健さんのいない任侠映画のようなものじゃないですか」。