仮面ライダー響鬼

テレビ朝日系ドラマ「仮面ライダー響鬼」。
三之巻「落ちる声」。
物語の舞台は屋久島から葛飾柴又へ戻り、ここで期待通り、あのミュージカル風の演出が復活した。自転車に乗り快調に走りながら葛飾柴又の寺社の町を行き中学校へ通う十四歳の少年、安達明日夢栩原楽人)。彼がここで変な歌を歌った。変な歌と云うのは「かえるの歌」の替え歌で、先週までは主人公ヒビキ(細川茂樹)が「蘇我入鹿の歌」や「別れの歌」を歌ったが、今回は明日夢がヒビキへの憧れをこの歌に託したのだ。「変なオジサン、名前はヒビキ、キ・キ・キ・キ、キキキキキキキキ、鍛えてます!」。中学生にとって三十歳は「オジサン」なのだ。「ヒビキ鍛えてます!の歌」と名付けておこう。
この歌が物語るように、今や明日夢はヒビキに夢中だ。寝ても醒めても胸中を占めるのは「変なオジサン」ヒビキのことばかり。何事もヒビキを基準に考え、ヒビキの真似をしてしまう。ヒビキのクシャミ癖までも伝染してしまった上、「あれ?誰かに風邪うつされた?」と心配した友人には「もっと鍛えとかないとね」と応え、高校受験のことで悩んでいる友人たちの前では「自分を信じることが基本だよね?」と強がってしまった。何から何まで全部ヒビキの物真似だ。とはいえ現実は厳しい。受験勉強の心得について語り合う友人たちの会話に、明日夢は付いて行けなくなっていた。屋久島の森で不思議な光景を見て以来、明日夢は自分の現実世界に帰ることができないでいたのだ。
他方、その頃ヒビキも歌っていた。「云いたかないが、連ちゃんはキツイ、い・い・い…」。ところが、そこまで歌ったところでヒビキ専属の運転手を務める立花香須実(蒲生麻由)が遮り、あとを続けて歌った。「…い!云うだけ無駄だよ、頑張ろう」。そして両名は「魔化魍」退治のため車を走らせた。
なお、今回の収穫として、ヒビキが乗り物に酔い易い体質であることも判明した。車を運転できないだけではなく乗り物そのものに弱かったのか。
タクシー運転手として生計を立てる明日夢の母、安達郁子(水木薫)は、遠距離の仕事からの帰途に立ち寄った「刺身こんにゃく」の店で偶然、ヒビキの一行と遭遇した。別れた夫によく似ているヒビキに密かに惹かれてもいた郁子は、偶然の再会を喜んで興奮してヒビキに語りかけ、明日夢がヒビキに夢中であることをも伝えたが、ヒビキは「仕事がある」と云って直ぐに話を遮り中断して、香須実を急かして逃げるように走り去った。ヒビキの「響鬼」であることの秘密を屋久島の森で明日夢に見られ知られてしまったことについて香須実に責められるのを嫌ってのことだったが、この行為が郁子に誤解を与え、それがさらに明日夢を傷付けた。彼は自分がヒビキに夢中である余り、同じようにヒビキもまた自分を気にしてくれていることを期待していたのだ。まるで恋する者の心境だ。でも、これは年上の頼りがいのある「兄貴」という存在に対する少年の普遍的な感情に他ならないとも思う。