ごくせん第8話

日本テレビ系ドラマ「ごくせん」第八話。仲間由紀恵主演。
今宵のこの物語は、矢吹隼人(赤西仁)の進路の問題に始まり、少年と父親との葛藤を主題にした。ここにおいて前作=二〇〇二年版「ごくせん」の白金学院三年D組の生徒たちのうち熊井輝夫=クマ(脇知弘)が今作にも、ヤンクミ(仲間由紀恵)のかつての教え子として、続投して出演していることの真の意味が明らかになった。なにしろ彼の父親六平直政)は前作の第十一話で病により突然に逝去したのだ。喧嘩したままの死別だったのをクマは悔やみ、苛立ちの余り暴れて柄の悪い連中に絡まれ、殴られていたところをヤンクミに救出されたが、その場面を卑劣な写真週刊誌に撮られ「暴力教師」として報道されたことでヤンクミは最終話=第十二話において最大の危機を迎えたのだった。同時に、クマの父の築いた店「熊井ラーメン」が主を急に亡くしたあと、家出したクマの代わりに店を守るため、沢田慎松本潤)・内山春彦(小栗旬)・南陽一(石垣佑磨)・野田猛(成宮寛貴)が仕事を手伝った話も忘れ難い。要するに、前作「ごくせん」におけるクマと父との関係をめぐる物語は、仲間同士の絆の話を導いたばかりか、ヤンクミの深刻な危機の話にも繋がったことで、前作「ごくせん」で最も記憶に残るものになった。二〇〇五年版「ごくせん」の今宵の物語は前作のその記憶をよみがえらせた。もちろん前作を知らなくとも今宵の話を楽しめたかもしれないが、前作を知っていることで面白さが何十倍か増してくるのは間違いない。
また、「ごくせん」の目玉と云える大乱闘の場にヤンクミの祖父、「大江戸一家」三代目の黒田龍一郎(宇津井健)が自ら駆け付け助け舟を出したのは、父親の愛ということを主題にした話の山場には実に相応しいことだった。実際、ヤンクミの今回の敵は質の悪い地上げ屋佐戸井けん太)の一味であるから、たとえ今ヤンクミが腕力において一時的に勝ったにしても、のちのちまで悪質な報復の続くだろうことは避け難いと予想された。それを阻止できるのは任侠集団「大江戸一家」の威光のみだった。
黒田龍一郎が一人出陣するに至ったのは、小田切竜(亀梨和也)がヤンクミの危機を察知して一人「大江戸一家」へ走り、朝倉てつ(金子賢)・ミノル(内山信二)・菅原誠(両國宏)・若松弘三(阿南健治)に報告し、頭を下げ、助けを求めたからだった。「お嬢」ヤンクミを守るため現場へ駆けようとする彼らを止めて、組長が自ら向かったのだ。二月十九日放送の第六話の前半で小田切竜と矢吹隼人がヤンクミの実家を知ったことがここにおいて大きな役割を果たしたわけだが、同時に、小田切竜が常に冷静で鋭い洞察力の持ち主であるという設定が重要な力を発揮したことを見逃してはならない。クマが一人で地上げ屋に抗議に走ったと知らされたとき、土屋光(速水もこみち)・武田啓太(小池徹平)・日向浩介(小出恵介)が、クマの助力に向かった矢吹隼人のあとに従って駆けようとした中、小田切竜だけはヤンクミの制止に直ぐに従い、逆の方向へ走った。そうして「大江戸一家」へ駆け込んだ。小田切竜に関する二つの設定が物語を効果的に盛り上げたわけだ。
矢吹隼人の父との対立の話に関して注目したいのは、彼の家庭が描かれたことだ。少年たちの物語が面白いものになる上では、彼らの生活の基盤が確と描き出される必要がある。矢吹隼人には帰るべき家があり、そこには血の気の多い父親、博史(内藤剛志)が生活していて、素直で優しい弟、拓(石黒英雄)も生活している。隼人は父と喧嘩ばかりしているが、弟が二人を繋いでいる。家庭は壊れてはいない。弟が素直なのに対し、父と兄が素直ではないだけだ。隼人が父のため朝食にオニギリを作り、形のよくないオニギリを食いながら父が涙を流したとき、二人は少しだけ素直さを見せたのだ。
「ごくせん」の面白さは物語にだけあるのではない。細部の至る所に笑い所や萌え所が散りばめられているのがまた面白いのだ。数え上げれば限がないが、一つだけ挙げておこう。小田切竜・矢吹隼人・土屋光・武田啓太・日向浩介が皆で「熊井ラーメン」を手伝った日の夜のこと。喫茶店でクマの昔話に彼らが耳を傾けていた場面。クマの、ヤンクミへの感謝の話は、彼ら五人を感動させたが、むしろそれ以上にクマ自身を幸福な思いにしたらしい。彼は幼い弟と妹を抱き締めてその思いを噛み締めた。ところが、何と!その背後ではクマの真似をして土屋光が日向浩介を抱き締めていたのだ。日向浩介は至福の笑顔だった。ところで、クマの至福の表情を見て矢吹隼人も穏やかな表情だったが、それを見て小田切竜も穏やかな表情になっていた。なかなかエロティクな気配の漲る場面でもあったのだ。
なお、今回の冒頭近く、遅刻した矢吹隼人は教室に入るや「遅刻しちゃってごめんなぱい」と軽く謝罪した。従来「くだぱい」だったのが、まさか「ごめんなぱい」になるとは予想できなかった。