ごくせん第9話

日本テレビ系ドラマ「ごくせん」第九話。仲間由紀恵主演。
田切竜(亀梨和也)が何故あんなにも落ち着いているのか?その謎は今宵の第九話で明らかにされた。矢吹隼人(赤西仁)・土屋光(速水もこみち)・武田啓太(小池徹平)・日向浩介(小出恵介)を中心にして三年D組の全員が大いに馬鹿騒ぎで沸いている間にも彼一人だけは冷静な傍観者、観想者であるに留まり続けているのが常だが、それは何故なのか。もちろん一つには彼がそもそも冷静で落ち着いているから何時も落ち着いて冷静なのだろうが、今宵の第九話で分かったのは、それが実は厳格で偉大な父親に逆らえないでいることから来る無力感の表出でもあったらしいということなのだ。
田切竜のこれまでの人生は全て、彼の父、警察官僚の小田切信也(宅間伸)によって定められてきた。そして竜が自らの意志で自らの進路を決めることは許されなかった。現在の竜が不良少年と化しているのは恐らくは父へのささやかな反抗なのだろうが、それでもなお彼は真には父に抵抗し切れていないのだ。たとえ夜の街を徘徊したり暴力沙汰を惹き起こしたりすることは父を少し困らせることではあっても、父の定めた進路とは別の道を自ら拓くことではなかった。今宵の後半、「大江戸一家」を舞台にして、ヤンクミ(仲間由紀恵)と黒田龍一郎(宇津井健)の見守る中で竜が父に自身の思いを告げ、矢吹隼人・土屋光・武田啓太・日向浩介にも励まされながら父と和解したのは、云わば竜の人生において初めて自らの意志を表明した瞬間だったわけなのだろう。信也はその瞬間の来るのを予想してはいなかったろうが、待ち望んでいたには相違ない。だからこそ和解が成立し得たはずだ。
このように今宵の後半には小田切父子の対立と和解のドラマがあって泣かせたが、父子の衝突と決着に至る騒動の発端となる事件として、黒銀学院三年D組と桃ヶ丘女学園との合コン大会が冒頭十五分間にわたり描かれた。武田啓太の発起による合コンの話で、矢吹隼人・土屋光・日向浩介を中心にして三年D組の全員が大いに盛り上がった。その様子を見るだけでも楽しく、これだけでも傑作なドラマだったと云える。強いて云えば途中の展開が今一つだったかもしれない。冒頭の合コン騒動と後半の父子和解との間の流れには少々急ぎ過ぎた感がなくはなかったが、恐らくは激動の結末に向けて先を急ぐ必要があったのだ。
次週の最終回に来るだろう嵐の襲来を告げるのは、今宵の末尾、黒銀学院の理事長であり校長でもある黒川銀治(井上順)が見せた怒りの凄まじさだ。その怨念の迫力には教頭の猿渡五郎(生瀬勝久)さえも恐れ戦いた。だが、何を怒っているのか?事件は一件落着したのではないのか?恐らくは一件落着したことが不愉快なのだ。これまでにもあった。彼の決定とは違う方向へ事態が進展し決着してしまったことが。たとえ結果の全てが円満の幸福の解決だったとしても、それは彼自身の決定には反するものだった。この独裁者にとっては結果それ自体の良し悪しよりも自分自身の命令の徹底が重要であるのだとすれば、ヤンクミは邪魔者でしかあり得ないことだろう。小田切信也が見せたような柔軟性は、彼にはあり得ないことだろう。
ところで、冒頭十五分間の合コン大会では坊主頭の美少年、船木健吾(高良健吾)の活躍が見られた。合コン参加権の獲得を目指しての籤引き大会で、先ずは彼が籤を引いていた。矢吹隼人からは「押すな!ハゲ!」と云われていた。籤に外れて悲しんでいた。それに先立ち、合コンには十人しか参加できないと知ったとき真先に「なんでだよ!」と絶叫したのは小橋直哉(尾嶋直哉)だった。で、船木健吾の次に籤を引いたのは秋山陽介(川村陽介)。見事に権利を獲得して大喜びだった。背後には小橋直哉や橋本竜平(渡辺竜平)の姿もあった。そのあとの大混乱の渦中に川田優一(中村優一)の姿も漸く見出せた。それにしても、この大混乱の只中でも相変わらず妙な雰囲気を醸し出していた日向浩介。
ホワイトデイに関する話題でのヤンクミと馬場正義(東幹久)との間の遣り取りも哀れで笑えて傑作だった。大きめの贈物に三通もの手紙(「山口先生へ その①」「その②」「その③」!)を添えた馬場先生に、「先生にはチョコあげてませんから!」と突き放したヤンクミ。ギター侍風に拒否されて、「残念!」とギター侍風に続け、落ち込んでいた馬場先生。悲しくて、やがて笑える。流石だ東幹久。ヤンクミを宴会へ連行するときには「ビールの中身は何ですか?麦!麦!」と陽気に歌っていた。あと、冒頭の登校時の場面、ヤンクミの「かあ・わあ・いい・いい!」に対する小田切の軽い笑顔がよかった。もちろん最後の、三年D組に復帰して歓迎されたときの満面の笑顔も。