義経・第十二回

NHK大河ドラマ義経」。滝沢秀明主演。第十二話。
今宵の見所は静憲法印(壌晴彦)の立場と態度の変化にあった。福原より大軍を率いて上洛した入道相国(渡哲也)に対して静憲法印は治天の君の使者としての強みから最初は横柄に振る舞っていたが、入道が鹿ヶ谷謀議と院との関係について詰問するや返答に窮して焦り始めた。これまで禁中に大人しくしていた平家の、軍事貴族としての本性がついに顕にされた瞬間、この予想外の状況の急転に直面して周章狼狽するほかない宮廷貴族の無力で惨めな姿を、彼の表情がよく表現していた。もっとも治天の君後白河院平幹二朗)自身はもっと早くから震え上がっていた。謀議の真相を見抜かれている恐れを想定していたからだ。だからこそ西八条第に宗教界の大物を派遣して入道相国を牽制したかったわけだろうが、当の高僧は事態を全く認識できていなかったわけだ。後白河院にしても、六波羅入道がまさか暴力性を露呈する事態に至るとは予想し切れていなかったかもしれない。
こうして平家は武家政権を樹立するわけだが、それは高倉院の支配下に実行された点では合法的だった。ここには高倉院天皇後白河院法皇との間の確執があったはずだが、遺憾ながら今回のこのドラマでは流石にそこまでは描かれないようだ。
他方、平宗盛鶴見辰吾)の常識は今回その限界を露呈した。源氏の生き残りの者たちに対して彼が常々強硬であるのは、武家としての源氏の連中が自身の昇進には無益であると認定できたからに他ならない。善勝寺成親の助命に関して彼が小松内府重盛(勝村政信)に賛同したのは、院の寵臣を助けることが平家と院との関係を良好に保つためには有効であり、それが自身の昇進に有益であると判断できたからに過ぎない。だから当然、院への厳罰の論に関しては彼は小松内府に従えなかった。そして今回、小松内府の逝去のとき祝杯を挙げることができたのは、優秀な兄の死が自身の昇進に繋がるからに他ならない。自身の栄華のことしか頭にない点で、またそのためには兄弟の死をも歓迎する程に情けを欠いている点で、彼はどこまでも宮廷貴族的なのだ。そしてそのことがやがては一門の分裂を招きかねないとの恐れを、北政所平時子松坂慶子)は既に予感しているのだ。
同じく「貴族的」と云われる人物たちの中で、平維盛賀集利樹)と平資盛小泉孝太郎)の兄弟における貴族性は明白に方向性が違うと云える。前回、院の五十歳の賀に際して彼ら兄弟は麗しく青海波を舞っていた。彼ら美男子の兄弟が見せる貴族性とはそのような雅の振る舞いにあり、感情と倫理に関してはむしろ父の重盛の忠孝の精神を継いでいたろう。彼らを、特に兄の平維盛を今なお人々が愛するのは彼の優しさに共感するからだろう。
なお、このほか源九郎義経滝沢秀明)の幼友達の五足(北村有起哉)が妖怪お徳(白石加代子)の指示で入道相国に仕えてカムロの格好になったり、武蔵坊弁慶松平健)が女への嫌悪感を表明して、恐らくは己の愛する義経の周囲には決して女を近付けたくないという思いをも表現したり等、色々な見所があった。毎回なかなか飽きさせない面白さがある。あとは平知盛阿部寛)・平重衡細川茂樹)の見せ場が回って来るのを待とう。