エンジン

フジテレビ系「月九」ドラマ「エンジン」。木村拓哉=キムタク主演。井上由美子脚本。第五話。
「ほんとのこと云いたくても云えねえときってあんだよ!家族にだって云えねえときってのがあんだよ!」というのは神崎次郎(木村拓哉)の悲しい叫びの言葉だが、実にこの命題を軸にして、園部徹(有岡大貴)・園部葵(佐藤未来)兄妹の秘密をめぐる厄介な大きな騒動と、次郎の秘密をめぐる小さな騒動とが二重構造化された。だから次郎の騒動の解決は園部兄妹の騒動にも少しだけ連動したが、小さな騒動の解決が大きな騒動を解決できるわけでは無論なかった。次郎の秘密が暴露されたときの次郎の何時になく寂しそうな姿を見たことで、養護施設「風の丘」の子どもたち皆が園部兄妹に対しても優しくなれたが、あくまでもそれは「風の丘」内部の、それも子どもたちの間の解決でしかない。園部兄妹の騒動は「風の丘」の外部に、しかも理性を欠いて話の通じない愚かで富裕で年齢上「大人」の小市民連中によって惹き起こされているのだ。
今宵このドラマで最も凄かったのは幼い園部葵の大度量だと云わなければならない。兄の園部徹をはじめ周囲の人々は皆、まだ小学一年生の幼い葵を傷付けたくなくて必死になって事実を隠しているが、実のところ葵は全ての事実を知った上で、周囲への配慮から、ことに優しい兄を傷付けたくなくて、敢えて何も知らない振りをしていたらしい。秘密を暴露されて寂しそうだった次郎を慰めるため葵は自身のそういった秘密を語り聞かせたが、それを盗み聞いた水越朋美(ハリウッド小雪)は園部兄妹それぞれの思いを知って号泣してしまった。そんな朋美を次郎に慰めさせる策を考えたのも葵だった。なにしろ「次郎、あとはお願いね!」と来た。葵に向かって次郎は「お前、いい女になるかもな」と云ったが、この予言は当るに違いない。
そういえば、朝食のとき次郎が勢いよく頬張るのを小さな子どもたちが真似していた場面も傑作だった。次郎は子どもたちに憧れられていると同時に面白がられてもいるのだ。このほか、話の通じない愚かな市民連中の理不尽に対し「風の丘」の母とも云える牛久保瑛子(高島礼子)が怒ったところや、牛久保の秘密の気配を既に感じていたという神崎ちひろ(松下由樹)自身にも何か秘密がありそうなところも面白かった。