anego・アネゴ

日本テレビ系ドラマ「anego・アネゴ」。林真理子原作。中園ミホ脚本。制作協力オフィスクレッシェンド篠原涼子主演。第五話。
主人公「アネゴ」=野田奈央子(篠原涼子)が同じ勤務先の新入社員の黒沢明彦(赤西仁)と一夜を過ごして、翌朝に受けた謎の女からの脅迫電話。その主は水沢加世(板谷由夏)。奈央子と見合いをした相手、経済産業省の上級職、斉藤恭一(神保悟志)と四年間も交際してきた人だった。そのような交際相手がいながら敢えて斉藤が見合いをしたのは、加世に離婚歴があり七歳の子もいて官僚夫人となるには相応しくないと考えた加世が自ら身を引くことを決意したからだった。加世と直に会ってその事実を知った奈央子は、加世の無念を思い、斉藤と婚約してよいかを悩み始めていたが、斉藤との三度目のデートの夜、斉藤が本心では加世を愛し、気にしていること、また加世の子「翼君」をも吾が子のように愛していることを知るに至り奈央子の意は決した。この互いに愛のない縁談を破棄したのだ。
それにしても思うのは、どうして人は人生の重大事を勢いと意地だけで決めるのだろうか?ということだ。奈央子も今回は見合い相手の交際相手を知ることで結婚を思い止まったが、それがなかったなら恐らくは周囲への意地から勢いだけで結婚へ向け走っていたろう。奈央子の母親(由紀さおり)がこの見合いの成功を祈っていたことは元来もちろん無視できない要素だろうが、実のところ奈央子にとっては勤務先の東済商事経営戦略部における阪口部長(升毅)以下、同僚衆の眼の方が重圧だったらしい。彼らは当初は見合いの失敗を予想し、予想に反してそれが上手く行っていると知るや、逆に奈央子に近日中の結婚と退職あることを勝手に確信し、話題にし始めたのだ。奈央子が無用に意地になった要因は職場内のこの状況に他ならない。確かに結婚というのは社会的な行為であるから私的個人的な思いだけで決められるわけでもないだろうが、それにしても同僚たちの眼を気にする余り、それだけで結婚し退職することを決めるのは軽率なことだ。もっと自分自身の幸福を考えるべきではないか。奈央子は仕事において優秀で、職場内の人間関係を調停することにも長けているが、第二話での大胆な行動が証明する通り意外に軽率な面もあるようだ。
ところで、奈央子と一夜を過ごした黒沢明彦が寝室から去る際、奈央子が見栄から発した「私も忘れるから、黒沢君も忘れて」の言に、応じた彼の「助かります」という語。どう取るのが妥当だろうか。あの一言は奈央子を決定的に傷付けたが、それは奈央子の側に過剰な思いがあったことを物語るだろう。奈央子は今、深い交際を直ぐに結婚に結び付けてしまうような精神状況にあるに違いない。なにしろ働く女も三十歳を過ぎたら結婚して退社しなければならないのだと奈央子は思い込んでいる。奈央子がそう思い込んでいるのは会社と社会がそう思い込ませるからだろう。だが、ここにおいて黒沢明彦と奈央子との年の差が露呈しているのかもしれない。三十歳を過ぎたら女性社員は結婚すべきだとか、結婚した女性社員は退社すべきだとか、そういった考えは黒沢明彦にはないのではないかと思う。でも、これを過度に好意的に受け止めるのも恐らくは正しくない。彼は女性に対して男性が責任を持つということ自体を鬱陶しく感じているだけなのかもしれないからだ。