汚れた舌

TBS系ドラマ「汚れた舌」。内館牧子作。第六話。
涼野杏梨(牧瀬里穂)大暴走!その発端は先週の末尾のあの衝撃の「花畑」事件にあった。夫の涼野耕平(加藤浩次)が妻である自分との約束を守るよりも義母の涼野弘子(森口瑤子)の我侭に従うのを選んだばかりか、その現場では何故か何の所縁もない江田千夏(飯島直子)と親しく会話していたのだ。これが不倫の現場であり、それが陰謀により演出されたものであることを、杏梨は的確に見抜いたようだ。戦いに勝つためにはそれなりの策が必要であることを認識したのかもしれない。杏梨は敵に弱みを見せないようにするため、常に笑顔で優雅に振る舞いたいのだろうか。だが、その笑顔が怒り・恨み・哀しみ等を滲ませて、凄まじく恐ろしい。
しかし何とも運の悪いことに、その後さらに杏梨は、流血の千夏を耕平が抱き抱えた(お姫様抱っこ!)現場を目撃してしまった。見たくもない浮気の現場を見てしまったことの動揺からか、流血の赤に極度の恐怖を感じるようになったのだろう。転じて苺の赤にさえ流血の千夏を重ね合わせる精神状態に化した。ここから真の大暴走が始まった。自宅の台所にある山盛の苺に恐れを感じ、杏梨は苺の山を両手で掴み、頬張り、全て食って片付けたのだ。弘子と涼野光哉(田中圭)の眼の前で、「見たくない。見たくない。だから食べちゃう。食べちゃう。」と云いながら満面の笑顔で苺を一気に頬張る杏梨。笑えるようでいて、実は悲しく、しかも寒々しくも恐ろしい場面だった。先週に続き今週もまた、牧瀬里穂一世一代の名演技を見ることができたと云える。
杏梨の苺一気食い場面は二度あった。二度目は一度目のあった夜の翌朝。夫や義母が仕事に出たあと、杏梨が皆のため上機嫌で夕食のための仕込みをしていたとき、冷蔵庫の中に山盛の苺がまだ残っていたことに気付いたのだ。再び一気に食い始めた杏梨。そこに表れた光哉。驚いて「姉さん、どうしてそんなに苺食べたいの?」と聞いた光哉に、杏梨は「見たくないから食べちゃうだけ」と満面の笑顔で応えた。「俺も手伝う」と云って彼も一緒に食い始めた。見たくないなら捨てればよいのに、何故か全て食おうとするのだ。
これに先立ち、一度目の食いのあった夜、遅くに帰宅した耕平は、家中が寝静まり灯の消えた闇の中で階段に座り耕平の帰宅を待っていたらしい杏梨の満面の笑顔に気付いた。まるで「ホラー映画」のような恐怖の一瞬だったと云えるだろう。
他方、今宵の江田典子(松原智恵子)の活躍としては、千夏と宿敵の白川隆一郎(藤竜也)との密会の現場に静かに出現した場面が挙げられるが、それ以上に面白かったのは、白川が「四天王展」の失敗で批評家たちに酷評されている新聞記事を読んで面白がっていた場面だと思う。あの楽しそうな表情がよかった。