キムタク月九エンジン

フジテレビ系「月九」ドラマ「エンジン」。木村拓哉=キムタク主演。井上由美子脚本。第八話。
別れは悲しい。例外がないわけはないが、大概はそうだろう。永遠の別れであれば無論のこと、たとえ一時の別れであっても、やはり別れ自体は悲しいものだ。では、永遠の別れであるのか一時の別れであるのか定かではない別れの場合はどうだろう。思うに、どのように別れを告げればよいのか態度が定まらないだけに却って寂しさの募る悲しい別れになるのではないだろうか。実に今宵の「エンジン」第八話で神崎次郎(木村拓哉)と養護施設「風の丘」の子どもたちに訪れた別れがそれだった。今ここで分かれたら再び会うことはないと覚悟しなければならないのか、それとも明日か明後日か、ともかくも近いうちに再会できると期待してよいのか。次郎も、子どもたちも互いに決心が付かなくて、そうであるだけに却って云いようのない寂しさを感じないではいなかったに違いない。六歳の金村俊太(小室優太)が車で走り去ろうとする次郎のあとをどこまでも必死に追い駆けてきたのは、「今度いつ会えるのか?」という問いに次郎が答えてくれなかったからだった。確実に再会のときが来ることを、次郎に約束して欲しかったのだ。俊太というのは、五月九日放送の第四話で、次郎の引き籠った個室内の物置用家具の中に引き籠ったあの男の子だ。次郎を慕った「風の丘」の子どもたちの中でも特に次郎に密着したことのある子だと云ってもよい。
他の子どもたちと次郎との別れにもそれぞれ味わい深いものがあったが、例えば、五月十六日放送の第五話において素敵な発言を連発した園部葵(佐藤未来)は今回も「いい女」振りを存分に発揮した。兄の園部徹(有岡大貴)に守られているかに見せかけて実は逆に兄を見守っていたらしい幼い葵は、三倍もの年上の次郎や水越朋美(小雪)をも軽く手玉にとっていた。第六話から第七話にかけて騒ぎを惹き起こしてしまった塩谷大輔(石田法嗣)は、新生活の場では自分が小さな子どもたちを守る!と宣言した。
だが、今宵の一番の見所だったのは、次郎を宿敵と視て時々批判を加えていた鳥居元一郎(堺雅人)が別れ際に次郎に告げた「土足」発言だろう。無論あれは照れ隠しの類だ。次郎に対するあの厳しい言葉によって逆に鳥居は次郎への精一杯の敬意を、嫉妬混じりに表したのだ。