内館牧子の汚れた舌

TBS系ドラマ「汚れた舌」。内館牧子作。第九話。
涼野杏梨(牧瀬里穂)は「みっちゃん」=涼野光哉(田中圭)に裏切られたと感じた。確かに裏切ったわけだが、光哉が誰に対しても常に善良であり続けたことには変わりない。江田千夏(飯島直子)が自害のため能登へ向かったのを察知した光哉は、そのことを義兄の涼野耕平(加藤浩次)に伝え、耕平が救出に走ったのを見送ったあとは実母の涼野弘子(森口瑤子)と共謀して杏梨には嘘を吐いた。ここにおいて弘子と光哉が耕平を千夏の許へ向かわせたのは人命を救うためであり、策を練って杏梨に嘘を吐いたのは杏梨に無用の心配をかけないため、傷付けないためであって、何れにせよ平和を望んでの最善の選択だったと評してよい。だが、無論そんな理屈は裏切られた側の者に通用しない。ことにこの場合、相手は杏梨なのだ。最善の選択は一挙に最悪の事態へ転じた。
怒る杏梨は光哉を「大嘘吐きの二枚舌!」と罵り、罵られた光哉は「結構メゲタよ」と嘆いたが、弘子は「杏梨みたいな能無しに何云われたって放っときゃいいのよ!光哉、舌なんてね、二枚どころか五枚も六枚も使うの。八方美人じゃ少なくて、十方でも十二方でもイイ顔するの。お金っていうのはね、純粋な人間には縁遠いの。肝に銘じて!」と叱責した。光哉は眼を丸くしながらも肯いていた。