内館牧子の汚れた舌

TBS系ドラマ「汚れた舌」。内館牧子作。第十話。
前半かなり見逃したが、後半の最後を飾った涼野弘子(森口瑤子)と涼野杏梨(牧瀬里穂)の直接対決には凄まじい迫力があった。弘子の巧妙な計略の地道な積み重ねによって涼野耕平(加藤浩次)が江田千夏(飯島直子)との不倫を続けていることを恨んだ杏梨は弘子の生まれ育ちの悪さを徹底的に口汚く罵り始めたが、その全てを最後まで聞き届けた弘子は唯一言の反撃を返した。だが、それは致命的な攻撃だった。耕平の経営する花屋の副社長職を明日で辞任したいというのがその一言だった。だが、あの花屋の重要な権利を弘子は完全に私的に掌握していて、弘子は店を辞めても花屋として生きてゆけるが、花屋は弘子を失うことで確実に倒産すると云うのだ。耕平が千夏との不倫の恋に現を抜かしている隙に、店は弘子に征服されていた。生まれ育ちのよさが杏梨の唯一の誇りであり、それを有効にしているのは社長夫人の地位でしかなかったのに、その土台が既に弘子によって切り崩されていたわけなのだ。
今回このほか「みっちゃん」=涼野光哉(田中圭)と耕平との間にも対立が生じた。耕平が杏梨に対する夫としての義務を遂に放棄して千夏の許に走ろうとしたのを光哉が非難し、耕平が光哉の「二枚舌」「八方美人」を非難したことで、怒った光哉が耕平を殴ったのだ。耕平が杏梨を捨てることを決意したのは杏梨が千夏の花屋に忍び込んで荒らしていたのを知ったからだ。千夏の店の合鍵の一つは光哉が預かっていて、杏梨が侵入にあたりそれを使用したのは明白だが、そのことに関して耕平は、光哉が杏梨に鍵を提供したと判断したらしい。恐らくは真相もその通りなのだろう。光哉は杏梨に鍵を渡したわけではないが、あたかも油断したかのように、杏梨の目の前に置いた荷物の上に鍵をも置いたまま、忘れ物を取りに行くと称して居間を去った。杏梨が夫の不実を嘆いたのを聴かされた直後に。杏梨のあの暴走は光哉の想定内の事態だったろう。極めて巧妙で冷酷な手法であり、光哉が確かに弘子によく似ていることを見事に物語っていよう。